「共働きが加速すれば男も女も幸福度が上がる」世界23カ国調査で判明した男女格差と幸せの意外な関係 - PRESIDENT Online 「共働きが加速すれば男も女も幸福度が上がる」世界23カ国調査で判明した男女格差と幸せの意外な関係 PRESIDENT Online (出典:PRESIDENT Online) |
■日本の男女間格差は依然大きいまま
日本では過去数十年間にわたって、男女共同参画社会の実現に向けたさまざまな施策が行われてきました。
この中で、1986年には「男女雇用機会均等法」が施行され、1999年にはさまざまな面における男女の平等を目指した「男女共同参画社会基本法」が施行されています。これ以降、ワークライフバランスの推進のための環境整備、女性のキャリア形成支援、性別役割分業意識解消のための意識啓発といった施策が実施されてきました。
しかし、日本の男女間格差はなかなか解消していません。
世界経済フォーラムの公表しているグローバルジェンダーギャップ指数(世界男女格差指数)を見ると、日本の男女間格差は、カナダ、フランス、ドイツ、イタリア、日本、英国、米国のG7の中でも最低となっています。また、2023年の値を見ると、146カ国中125位であり、2006年の公表以降で最も低い順位となっていました。
■男女間格差の解消は人々の幸福度を高めるのか
このように日本ではなかなか男女間格差が解消しませんが、もし男女間格差が小さくなれば、社会の人々はもっと幸せになるのでしょうか。
女性の場合、男女間格差の解消には大きなメリットがあります。現在、さまざまな面における女性の地位が男性よりも低くなっており、これが解消されれば、女性の幸福度の向上につながる可能性が高いでしょう。
これに対して男性の場合、それまで占めていた社会的地位を女性に明け渡すことにもなるため、不満が募り、幸福度の低下につながってもおかしくありません。しかし一方で、男性には、「一家の大黒柱として家族を支える」という責任が依然として強く残っており、これが負担になっている可能性もあります。もし男女間格差が解消すれば、このような負担も軽減され、心理的なストレスが減少することも考えられます。
このように、男女間格差の解消はプラスとマイナスの両方の効果が混在するため、その影響を予想することは一筋縄ではいきません。この点を明らかにするには、日本だけでなく、さまざまな国のデータを集め、男女間格差の状況と幸福度の関係を見る必要があります。
実は近年、この点に関する研究が進み、興味深い結果が明らかにされています。そこで今回は、男女間格差と幸福度の関係について詳しく見ていきたいと思います。
■男女間格差が小さいほど、男女両方の幸福度は高い
男女間格差と幸福度の関係について分析を行ったのは、モンマス大学のアンドレ・オーデット准教授らです(*1)。
オーデット准教授らは日本を含む世界23カ国の生活全般の満足度と4つの男女間格差の指標の関係を検証しました。ここでの4つの男女間格差の指標には、ジェンダー・エンパワーメント指数、ジェンダー開発指数、ジェンダー不平等指数、そしてグローバルジェンダーギャップ指数が使用されています。これらの4つの指標は定義が異なるものの、いずれも男女間の不平等度を数値的に把握した指標となっています。
オーデット准教授らの分析結果をまとめると、次の3点となります。
(1)男女合計のサンプルを使用した場合、男女間格差が小さくなるほど、生活満足度が高まる傾向にあった。
(2)女性のみに分析対象を絞った場合、男女間格差が小さくなるほど、生活満足度が高まる傾向にあった。
(3)男性のみに分析対象を絞った場合でも、男女間格差が小さくなるほど、生活満足度が高まる傾向にあった。その影響の度合いは女性より小さいものの、大きな差はなかった。
以上の分析結果から明らかなとおり、「男女間格差の縮小は、性別に関わらず人々を幸せにする」と言えるでしょう。
■男女間格差が縮小すると女性の幸福度が高まる理由
分析結果が示すように、男女間格差の縮小は、女性の幸福度を高めています。この背景に関して、オーデット准教授らは女性の経済的地位の向上の重要性を指摘しています。
男女間格差が縮小し、女性が労働市場でより活躍するようになると、女性の経済力が向上します。この経済力の向上は、女性個人の幸福度を高めてくれるでしょう。また、女性の経済力の影響は、本人だけでなく、家族、特に子どもにもプラスの影響をもたらします(*2)。女性の稼いだお金が子どもの教育や健康へより配分されるだけでなく、女性自身のキャリアアップのための資金として活用されるようになるわけです。
このように男女間格差の縮小は、経済的地位の向上をつうじて女性の幸福度を高めると言えるでしょう。
■男女間格差が縮小すると男性の幸福度が高まる理由
オーデット准教授らの結果は興味深いことに、男女間格差が小さいほど、男性の幸福度も高まることを指摘しています。この背景に関して論文では明示的な説明は行われていませんが、おそらく、男女間格差の縮小が男性の人生の選択肢を増やすことにつながるためだと考えられます。
男女間格差が大きく、男性が働き、家族を経済的に支えることが一般的である場合、男性はその負担を背負い、働き続ける必要があります。しかし、もし男女間格差が小さく、夫婦共働きで家計を支えることが一般的になると、男性側にかかるプレッシャーも軽減され、「働く」以外の選択肢を選ぶことも可能となります。
このように人生における選択の自由度が高まると、自分に合った道や自分が望んだ道を選択しやすくなるため、幸福度が上昇すると指摘されています(*3)。男女間格差の縮小は、女性の人生の選択肢を増やすだけでなく、男性の人生の選択肢も増やすことにつながるため、幸福度を高めることができると考えられます。
■男女間格差の縮小のための施策を実施していくことが重要
男女間格差の縮小は、社会を構成する男女両方の幸福度を高めていきます。このため、日本でも男女間格差の縮小のための施策をより強く実施していくことが重要です。
それではどのような面における格差の縮小を進めていけばよいのでしょうか。この点に関して世界経済フォーラムのグローバルジェンダーギャップ指数を見ると、日本では他国よりも政治や経済面での女性の地位が低いままとなっています。経済面では、女性の就業率や収入の格差が依然として存続しており、高い非正規雇用割合や男女間賃金格差の改善が求められていきます。政治面では、女性議員数の少なさが課題として挙げられるでしょう。
これらの課題は長年にわたって指摘されており、簡単には解消できるものではありません。しかし、今社会を構成する人々だけでなく、次世代の子どもたちがより幸せを実感できる社会にしていくためにも、さらなる施策の実施が求められます。
(*1) Audette, A.P., Lam, S., O’Connor, H. et al. (2019). (E)QualityofLife:ACross-NationalAnalysisoftheEffectofGenderEqualityonLifeSatisfaction. Journal of Happiness Studies, 20, 2173–2188.
(*2) World Bank. (2011). Worlddevelopmentreport2012:Genderequalityanddevelopment.
(*3) (1) Diener, E., & Tay, L. (2015). Subjectivewell-beingandhumanwelfarearoundtheworldasreflectedintheGallupWorldPoll. International Journal of Psychology, 50(2), 125–149. (2) Inglehart, R., Foa, R., Peterson, C., & Welzel, C. (2008). Development,freedom,andrisinghappiness:Aglobalperspective (1981-2007). Perspectives on Psychological Science, 3(4), 264–285. (3) Ryan, R. M., & Deci, E. L. (2002).Overviewofself-determinationtheory:Anorganismicdialecticalperspective. In E. L. Deci & R. M. Ryan (Eds.), Handbook of self-determination research (pp. 3–33). Rochester: University of Rochester Press.
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拓殖大学政経学部教授
1982年生まれ。慶応義塾大学商学部、同大学院商学研究科博士課程単位取得退学。博士(商学)。専門は労働経済学・家族の経済学。近年の主な研究成果として、(1)Relationship between marital status and body mass index in Japan. Rev Econ Household (2020). (2)Unhappy and Happy Obesity: A Comparative Study on the United States and China. J Happiness Stud 22, 1259–1285 (2021)、(3)Does marriage improve subjective health in Japan?. JER 71, 247–286 (2020)がある。
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(出典 news.nicovideo.jp)
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