「父親は『結婚したら入信する』と口約束して…」漫画家・菊池真理子が語る“宗教に救われなかった母”のおもかげ から続く
自分自身の体験をベースに、毒親や依存症など、さまざまな家庭の問題をマンガで発信してきた菊池真理子さん。
最新刊である『「神様」のいる家で育ちました~ 宗教2世な私たち~』はもともと、集英社のWebメディア「よみタイ」で連載していた作品です。なぜ、突然の公開終了に追い込まれたのでしょうか。「宗教2世」の苦しみについてもお話しいただきました。(全2回の2回目/最初から読む)
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──『「神様」のいる家で育ちました』では、菊池さんをふくむ7人の「宗教2世」のエピソードが描かれています。宗教2世の苦しみの元凶はどこにあるとお考えですか?
菊池真理子さん(以下、菊池) 何が苦しいかは個人によって違うので、一概には言えません。でも、全般的に言えるのは、自分で選んだわけではないのに一般の常識が通用しない生き方を強いられること。そして、親から条件付きの愛しかもらえないことだと思います。
本作の取材でお会いした人たちのなかには、家族や地域も捨てないと宗教から離れられない苦しさを抱えた方や、社会に出た時に誰からも理解されずに苦しむ方がいました。それぞれ苦しみは違いますが、「助けて」と言えないことが、苦しみを増している大きな要因のひとつだと感じます。
信仰の強要が子どもに与える影響──宗教2世の子どものなかには、親から愛されたくて宗教活動を行い、親を悲しませたくなくて脱会できない子も多くいるという話も聞きます。
菊池 宗教を信じる、信じないは個人の自由ですが、信仰を強要したり、信仰しない人を悪し様に言ったりする環境のなかで育つことは、子どもにとってどうなんだろうとは考えます。
子ども時代に最善の利益が配慮されない状況で育っているのに、それをおかしいと思わず大人になってしまうことで、心身のバランスを崩してしまう人もいますから……。
──安倍元首相の銃撃事件によって、「宗教2世」が急に注目されるようになりました。
菊池 こんな形で注目されることを願った宗教2世はいないと思います。もっと早くからその苦しみが少しでも知られていれば、あのような事件は起きずにすんだのかもしれません。
だからせめて私たちはこれからも声をあげ続け、そしてその声が少しでも広がっていくよう、活動していけたらいいなと思っています。
ある宗教団体からクレームが…連載終了の真相──本作は2021年9月に集英社のWebメディア「よみタイ」で連載が始まりましたが、2022年2月10日に第5話が突然公開終了となり、そこから全作公開終了となりました。あらためてどういう経緯だったのか、教えていただけますか?
菊池 連載中に、ある宗教団体から「事実と違う」とクレームが入ったんです。担当さんとは、連載前から「どこかから何か言われるだろう」くらいの覚悟はしていたのですが、いざ抗議が来ると担当さんレベルの話では収まらなくなり、出版社から、抗議された部分だけでなく、すべてにわたって表現を見直すように求められました。
でも、言われる通りにあそこも、ここも、と直していくと、「宗教2世が苦しんでいることを伝えたい」という当初の目的からは大きくずれてしまいます。なので、私からお願いして、連載を終了させていただきました。
──横槍を入れられたようで、悔しく感じませんでしたか?
菊池 悔しいというよりは、「やっぱりこうなるのか」「またダメなのか」という落胆のほうが大きかったですね。
もし、この作品が私一人だけの体験であれば、また違った対応ができたかもしれません。でも『「神様」のいる家で育ちました』で取材させていただいた方々が伝えたいと願っているのは、毒親の話でも、差別された話でもありません。できるだけ聞いたことを正しく伝えなければ、この連載の意義も半減してしまいます。
ですから、文藝春秋さんから「個人が本当に苦しんだことをなかったことにしてはいけません。うちで描きませんか?」とお声をかけていただいた時は、本当にうれしかったですね。まさに「捨てる神あれば拾う神あり」だなと思いました。
「ほかの宗教2世」を取材した理由──ご自身の体験のみならず、ほかの宗教2世の方々の話も聞いてオムニバスストーリーにしたのはなぜでしょうか。
菊池 私と同じように「ほかの宗教2世ってどうなんだろう」と気になっている人がいるのではないかと思って。
友人にその話をしたら、たまたま別の宗教2世の方がいて、お会いして話をすることになり、そこからまた別の知り合いからもご紹介いただき……と、つながりが増えていったんです。人によって苦しみ方も悩み方も違うけれど、それを誰にも打ち明けられず苦しんでいる人が、実はたくさんいるんだと気がつきました。
そこで、宗教2世の問題を知ってもらうためのトークイベントを開催していたところで集英社さんから連載のお話をいただき、ウェブ連載がスタートしました。そして公開終了を経て、文藝春秋さんで書籍化、と進んでいます。
──ほかの宗教2世の方々の話を聞いてどのように感じましたか?
菊池 まずは率直に、自分が選んだわけではない世界で生きることを強いられて、これまで苦しい思いをして生きてきた人がこんなにいるんだということに驚きました。
ただ、宗教によっても、個人によってもまったく違った体験をみなさんされてきているので、どの宗教が特別つらいとか悪いとかではないんですよね。ここだけは間違えないように描こうと意識しました。
「もちろん『宗教=悪』ではありませんが…」──書籍化の反響はいかがですか?
菊池 ウェブで連載していた時は、宗教2世の方が多く読んでくださっていた印象だったのですが、今回書籍化されたことで、それ以外の方にも広く興味を持っていただけているように感じます。
出版イベントなどもさせてもらったのですが、アンケートやTwitterのリプライなどをみても、一般の方が多いように感じますね。
──宗教2世をとりまく問題を広く知ってもらうことで、どのような期待をされていますか?
菊池 もちろん「宗教=悪」ではありませんが、自分で自分の意志を選べない、切り開けないことに苦しみを抱えている宗教2世と言う存在がいることを知ってもらいたいです。
ムーブメントが起こせるとは思いません。でも、もし「苦しいのに苦しいと言えない」と思っている宗教2世がいたら、「苦しいって言っていいんだよ」と教えてあげたいですし、そう言っている人たちが大勢いることも知ってほしいですね。
あと欲を言えば、ちょっとだけ社会も変わればいいなと思います。
宗教2世が差別されない社会へ──宗教2世が差別されない社会の構築も必要ですね。
菊池 そう思います。「宗教をやらない」という選択肢すら与えられなかった宗教2世が、自分の意志で生き直そうと決めた時に、みんなが普通に受け入れてくれる社会であってほしいと思います。私もそうでしたが、子どもはいいも悪いもなく、親が決めたから入信するというケースがほとんどなんですよ。
少しずつ、でも息長く私たちも発信していくことで、1ミリずつでも何かが変わっていったらいいなと思います。
15歳少年が「宗教をやめる」と告げると…壮絶すぎる“母との関係”「神の求めに到達できなくてウツじゃねーか」 へ続く
(相澤 洋美)
(出典 news.nicovideo.jp)
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