デンマークの教育制度が注目される中、ペーパーテスト禁止という考え方には興味深いものがあります。

2023年度、不登校の小中学生は全国で約35万人と過去最高を記録した。こうした中、学校が合わない子どもたちの受け皿として、注目を集めている学校がある。フリージャーナリストの前屋毅さんの新著『学校が合わない子どもたち』(青春新書インテリジェンス)より、一部を紹介する――。

■日本とデンマークの違い

学校が合わない子どもたちが選択する新しい学校のひとつに、「ラーンネット・グローバルスクール(LGS)」があります。兵庫県神戸市にある六甲山の自然豊かな標高850メートルの国立公園内に拠点を置いている“学校でない学校”です。世界的なコンサルティング会社で経営コンサルタントとして活躍していた炭谷俊樹さんが会社を辞めて、1998年4月に開校しました。

炭谷さんに学校をつくらせたきっかけは、勤めていた会社の関係でデンマークで暮らすことになったことでした。そこで炭谷さんは、日本とデンマークの違いを痛感したそうです。炭谷さんは言います。

「日本では、自分以外の人と比べての『勝った、負けた』が重視されます。学校でも会社でも競争をあおって、とにかく『勝つ』ことが求められます。ところがデンマークでは、そういうことがいっさいありません。会社での役職とか年齢、卒業した大学など、まったく関係ない。そういうことが人を判断する基準ではないのです」

■基準は「自分が何をしたいのか」

とかく日本では、学歴や勤めている会社などが個人の評価基準になっています。だから、有名大学に合格することにこだわるし、有名企業に入社することに必死になったりします。一条校の学校(学校教育法第一条で定められた、いわゆる“普通の学校”)も、そういう競争に勝ち残るための指導を優先しています。有名校にどれだけ多くの合格者を出したかが、学校の優劣を測る基準になっていたりもします。そういったことが人を評価する基準でないとしたら、何が基準なのでしょうか。

デンマークで重視されているのは、『自分が何をしたいのか』です。しかも、お互いの『自分は何をしたいのか』を尊重する社会です。

デンマークで暮らしはじめたとき、『なんで競争しないんだろう』とか『上下関係を重視しないのだろう』と戸惑いました。しかし慣れてくると、それが気持ちいい。自分らしさを認めてくれるのが心地いいと感じるようになりました。日本のように無理やり走らされているのではなく、デンマークの人たちは自分自身のモチベーションで走っていて、だからこそ、やっていることに納得感がある。それが幸福感につながっていくことを実感するようになりました」

■なぜ「幸福度」が低いのか

国際連合の接続可能な開発ソリューションネットワークが毎年発表している「世界幸福度ランキング」で、2024年にデンマークは1位のフィンランドに僅差の第2位でした。このランキングでデンマークは常に上位にあります。

ちなみに日本は、2024年には143カ国中の第51位。前年の第47位から順位を下げ、G7諸国(主要7カ国、カナダフランスドイツイタリア、日本、イギリス、アメリカ)のなかでは最下位です。円安傾向で状況は少し変わりつつありますが、戦後の高度経済成長を経て日本は世界でも有数の経済大国との評価を受けてきました。しかし、幸福度は第51位でしかないのです。

「他人と比べない」デンマークと「他人と比べる」日本の違いといっていいのかもしれません。日本の小学校や中学校ではペーパーテストが日常化していて、その点数が大きな評価軸になっています。ペーパーテストで点数をとることが「学力」とおもわれてもいます。しかしデンマークの小学校や中学校では、ペーパーテストをしてはいけないことになっているそうです。

■「子どもを入れたい学校がない」

そういうデンマークで2年間を過ごして帰国した炭谷さんが再会した日本は、「違和感だらけ」だったそうです。なかでも大きな違和感がわが子の幼稚園選びで、近所の幼稚園を見学に行って教室に入ったとたん、炭谷さんの目は点になってしまったそうです。壁に30人くらいの園児の絵が貼りだしてあったそうですが、どれも同じ構図で同じ色使いで描かれていたからです。子どもたちに見えているものは一人ひとり違うはずなので、描く絵も違ってくるはずなのに、みんなが同じ絵を描いている。そこに炭谷さんは日本の教育の姿を感じたようです。

「体験入園して帰ってきた娘は、『自分のやりたいことをまったくやらせてくれない』と怒っていました」

それから、いくつかの幼稚園を見学したものの、どこも同じようなものでしかありません。仕方なく炭谷さんは、わが子の個性を比較的尊重してくれるインターナショナル・スクールに入れます。

「私は日本が好きなんです。その大好きな日本に自分の子どもを入れたい学校がない。かなり悔しい思いをしました」

そこで終わったわけではありません。炭谷さんは、「こうなったら、自分で学校をつくるしかない……」とおもいはじめるのです。

■「不満があるなら、満足できるものを自分でつくる」

これも、デンマークで学んだことでもありました。「不満があるのなら、満足できるものを自分でつくれ」というのがデンマークの文化なのです。

「実際、デンマークにいるときに、通っていた学校が自分の子に合わないとおもったら、自分で学校をつくってしまう事例を目撃したことがあります。日本なら文科省への不満を口にするだけで終わってしまいがちです。しかしデンマークでは、不満があるなら自分でつくってしまうのです」

そのデンマークで学んだことを、炭谷さんは日本で実践に移していきます。ただデンマークと日本での大きな違いは、デンマークでは自分で学校をつくると公的な支援が受けられますが、日本は一条校でなければ公的な支援は受けられないことです。一条校になるには、かなり高いハードルがあります。つまり、一条校至上主義のなかで、一条校の学校が教育を独占している状況なのです。その一条校に合わなくて学校に行かなければ「不登校」というレッテルを貼って、病気あつかいされてしまいます。一条校に合わないのは個性のはずですが、そういう個性は大事にしてもらえない。

炭谷さんはデンマーク流に「不満があるなら自分でつくれ」を実践しようとしたわけですが、公的なものをふくめて何の支援もないなかで、独力で学校づくりをはじめることになります。

■「自宅の2階」からのスタート

最初につくったのが、1996年4月に開校した「出る杭も伸ばす教育・ラーンネット・ロゴパソコンランド六甲教室」でした。資金的にも余裕のないなかでの開校だったので、教室は炭谷さんの自宅の2階で、生徒の募集も口コミやチラシ、インターネットのホームページで行います。そして12名が入ってきますが、まだ学校というレベルではなく、子どもたちが学校が終わったあとに通ってくるアフタースクール、学習塾のような形態でした。

ここでは、「レゴブロック」と「ロゴ」を使って子どもたちの創造力を育てる教育が展開されていきます。レゴブロックデンマークの玩具会社レゴが開発した、組み合わせていろいろなものをつくれるプラスチック製のブロックで、子どもたちの創造性を培うことができ、日本でもかなり人気があります。そしてロゴは、マサチューセッツ工科大学(MIT)のパパート教授による子ども向けのパソコン・プログラミング言語で、世界的に高い評価を受けています。

■出る杭も伸ばす教育

ラーンネットでは、このふたつを組み合わせで、レゴブロックでつくった模型にモーターやギア、センサーを加え、コンピュータ制御で動かす体験をします。これが日本の学校や教室だと、見本が示されて、全員が同じ物をつくるというふうになりがちです。しかしラーンネットでは、子どもたちが自分の創造力を働かせて自由につくるので、いろいろな個性あふれる作品ばかりができあがります。そうしたなかで創造力を培い、個性を発揮する力が養われていくのです。

レゴブロックとロゴのクラスだけでなく、ラーンネットのアフタースクールにはアートなどのクラスもあります。そういうクラスで子どもたちは個性を発揮し、創造力を広げていきます。

アフタースクールをやってみて、「すべての子どもは創造的である」と炭谷さんは実感したそうです。日本の学校、一条校は子どもたちの創造性をじゅうぶんに育てられているのか、考えさせられる言葉です。

日本で新しい学校をつくるにあたって、炭谷さんはいろいろな教育について研究しています。海外にも足を運んで勉強したそうです。そうした積み重ねのなかから組まれたのが、アフタースクールのカリキュラムでした。

もちろん、ここが炭谷さんが目指したゴールではありません。炭谷さんが目指したのは、一条校に通った放課後だけの活動ではなく、一条校と同じように一日いっぱい“フル”で学ぶ、フルスクールでした。

■ついにフルスクールが開校

それが実現したのは、1998年4月のことでした。LGSのフルスクールが開校したのです。最初の生徒は、わずか3人だけでした。そのフルスクールで実践しようとした、そしていまも実践しているLGSの教育を、炭谷さんは次のように説明します。

「自分自身が何かをつくりだす。自分自身が価値観とか哲学をもって、自分はこういうことを学びたいから、こういうカリキュラムでやりたい。あるいは、自分自身が社会参画することで社会は変えられるとおもう生き方ができる人を育てることです」

決められたもの、与えられたものを学ぶ、これまでの学校の“教えこむ”教育とは大きく違っています。別の言い方をすれば、「探究型の学び」です。

いまの学校(一条校)でも、この探究型の学びを重視しようとしています。それが実現できているかどうかは別にして、探究型という言葉はよく聞かれるようになったし、熱心にチャレンジしている学校や教員も増えています。

しかし、LGSのフルスクールが開校した当時は、まだ珍しい考え方でした。いわばLGSは、探究型の先駆的な存在だったといえます。日本で探究型の学びが必要だと考えた理由を、炭谷さんは次のように説明します。

■答えを教えてもらうのがクセになっている

「私自身は日本の伝統的な教育を受けてきましたが、デンマークに行ってみたら、彼らは自分で考えるとか創造するという教育で育ってきている。はっきり言って、『負けてるな』とおもったし、このままでは『日本人は世界で通用しないな』とおもいました。彼らは自分で考えるのが当たり前で習慣のようにできていますが、日本人は答えを教えてもらうのが癖になってしまっています」

答えを教えてもらうのではなく、自分で考えるためには探究型の学びが必要です。とはいえ、いまでこそ探究型の学びという言葉も知られているし、その必要性を感じている人も多いのですが、LGSがフルスクールを始めた当初は、それを理解できる人は少ない状況でした。子どもたちに必要な学びだということを保護者に理解してもらうために、炭谷さんも苦労したようです。

「だから、できるだけわかりやすい言葉で伝える努力をしました。たとえば『出る杭を伸ばす』とか、『子どものいいところを伸ばしましょう』と保護者に説明しました」

そういう努力もあって、LGSの生徒数は徐々に増えていきます。教育機会確保法が成立したこともあり、“学校(一条校)ではない学校”の認知度も上がってきています。そこには、早くから探究型という一条校では難しかった学びを実践し、学校が合わない子どもたちにも学ぶ場を提供してきた炭谷さんの活動が大きく貢献したのではないでしょうか。まさに多様な学びを実践してきたわけです。

現在、炭谷さんはLGSだけでなく、“学校ではない学校”づくりを支援する活動も展開しています。

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前屋 毅(まえや・つよし)
フリージャーナリスト
1954年鹿児島県生まれ。法政大学卒業。立花隆氏、田原総一朗氏の取材スタッフ、『週刊ポスト』記者を経てフリーに。著書に『学校の面白いを歩いてみた。』(エッセンシャル出版社)、『教育現場の7大問題』(KKベストセラーズ)、『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)などがある

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※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Henrik Weis


(出典 news.nicovideo.jp)

ゲスト

ゲスト

こいつら、またわけわからんところから金もらって、大した根拠もなしにどこぞの組織のイデオロギーを垂れ流してんのか。マジでクズだな。

Tomy

Tomy

すべての国のすべての人が自分で考えて生きているんやで?負けてるのはこんな記事を書いてる君だけやでw

トージ

トージ

日本の教育が全ての日本人に合っているわけではないようにデンマーク式の教育が全てのデンマーク人に合っているわけではないのでは?ましてや日本人に合うの?日本の教育は同じことをさせる同調圧力がーとかいうかもしれんが同じことをさせないようにする(個性を尊重と聞こえの良い言葉で言い換えられてる)のも同調圧力

あるてあ弐型

あるてあ弐型

それは既に専門家とか関係者が考えてたヤツ(やるかどうかは別で)では...ぽっと出の知らん自称ジャーナリストとかいう素人が口を挟むようなものか?

honey

honey

当然この記事を書いた記者はデンマークで子育てしてんだよな?

ちょっさん

ちょっさん

日本を貶めるためだけに海外から自分の都合のいい部分だけをつまみぐいするような作文し書けないようなアホが負けてるだけ。つーか、田原総一朗の取材スタッフww 恥を誇ってどうする。

ゲスト

ゲスト

学力が全てでは無い事を前提に、日本の子どもの学力ランキングは世界2〜5位にランクしてんだけど、デンマークさんを見習うと20位にまで下がっちゃうんで手放しで良いとは言えないです。

一般通過ゲスト

一般通過ゲスト

日本式の型にはめる教育にもメリットはあるでしょ。最初から全部自分で考えろってのが難しい人にはデンマーク式は辛いだろうな

胃愛

胃愛

絵が描きたきゃペイントソフトを使えばいいものを、プログラム画面でアスキーアート作って遊んでる子供を見て「創造的!出る杭!」とか言うて喜んでるようなもんやな。自分の想像を実現するための道具の使い方を教える段階で、日本式教育の成果を再認識できなかったのかな。

すみのん

すみのん

勝った負けたするのって普通にモチベになるのに、なんか左側の人たちって競い合うことが悪みたいに言うよね。まあ勝負の為だけに勉強するってんなら学業としては歪かもしれんが

ゲスト

ゲスト

そりゃプレオンとかに記事を寄稿するような人らって、愚かな人が増えて問題だらけになってくれると自分たちの仕事が増えて嬉しいからじゃない?

hoge

hoge

免許を持たずデンマークで教員やってた訳でもない奴がただの無認可校をデンマーク式とか呼ぶの迷惑過ぎるだろ。義務教育の中身を放棄するんだったらレゴで遊ぶ時間作るのも簡単だろうよ。

四条 旭改二

四条 旭改二

なんでこういう馬鹿って外国の何処何処ではって持ち出すんだろうな、勿論自分が実際現地で長い年月体験してきたことが土台に有るなら文句は言わないがこの手の例えを持ち出す奴はまず聞きかじった情報だけで語るから質が悪いんだよ、そしてそういった情報には良い部分しか書かれてないんだからそりゃよく見えるだろうよ。

ゲスト

ゲスト

海外ではあぁ〜外国ではあぁ〜北欧ではあぁ〜か。デンマークの軍事力も参考にするか。絶対に侵略占領植民虐殺されても軍備増強反対するんだよな。一律発言出来んから説得力無い。

ショウ

ショウ

頭のいい子はどっちのルートでも、あるいは第三・第四のルートでも伸びたんじゃないかな

あるてあ弐型

あるてあ弐型

零れた連中をどう救うのかが問題なのに、上澄みの頭のいい子だけの話を取り上げてもな。

しろたぬき

しろたぬき

70歳近くにもなって文化がまるで違う国を比べることの無意味さを理解してない人なんですね

thousand

thousand

後進を指導する立場になって抱くようになったが、70にもなってこんなアホなこと書いとる方が恥ずかしいし、そんなゴミどもの世代に今の若い子らの可能性が奪われとることがさらに悔しい気持ちにさせられるわ。

無法松

無法松

「頭のいい」を何をもって定義してるのか気になってみたのに、定義すらしてなかった・・・。結論ありきで語るなってホント。

nullpo

nullpo

資源国は綺麗事抜かしてもカネが湧いてくるからねえ・・・