皮肉な話になるのかな。

北朝鮮では、元台風3号(ケミ)のもたらした湿った空気が梅雨前線を刺激したことで、先月25日から断続的に大雨が降っている。鴨緑江一帯が浸水被害を受けているが、上流の両江道(リャンガンド)恵山(ヘサン)も例外ではない。

28日明け方に大雨が降り、市内を流れる鴨緑江の水位が、1時間の間に、最大で2メートルも上がったり下がったりを繰り返すなど、多くの市民が緊張の夜を過ごした。恵山市当局は、市民に避難を呼びかけたが、多くの人は頑として動こうとしなかったという。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。

現地の情報筋によると、先月27日昼ごろから小雨が降っていたが、28日午前2時から大雨となり、午前7時まで降り続けた。最期の1時間が最も緊張を強いられたという。

城後洞(ソンフドン)の堤防沿いにある国境警備隊、恵山市建設突撃隊の建物が水に浸かり、恵山工業大学から鴨緑江につながる道、恵江洞(ヘガンドン)の堤防には、水があふれることをふせぐために土嚢が何重にも積まれた。

街宣車が周辺地域を周り、住民に緊急避難を呼びかけ、人民班(町内会)担当の安全員(警察官)や機動打撃隊(暴動鎮圧部隊)、国境警備隊、梅雨被害非常対策常務、人民班長(町内会長)などが手分けして、家々を巡り、玄関ドアをノックして早急に避難するように呼びかけた。

住民は、水が堤防に達しようとするころになっても避難しようとしなかった。電気炊飯器やミシンなど値の張る家財道具や、子どもたちだけを避難させ、大人は家に残っていた。情報筋はその理由を説明した。

「鴨緑江周辺は住宅価格が高く、恵山市内でもいい暮らしをしている人が多く住んでいる。冷蔵庫、テレビ、大型ミシンなど高価な家財道具を移動させられなかったため、危険を承知で家に残らざるを得なかった」

金正恩総書記は、食糧の専売、配給制度の復活を目論んでいるようだが、その混乱により、食糧難が続いている。食べ物欲しさの窃盗、強盗が相次いでおり、正確な発生件数は不明ながら、治安の悪化が伝えられている。そんな状況で、大切な家財道具を置いて逃げるわけにはいかないのだ。

「わが国(北朝鮮)では、家族全員が何十年も必死で働いてもテレビやミシン1台すら買えない家が多い。家を留守にすると、泥棒が殺到して、あっという間にすってんてんにされる。水が溢れそうになっても逃げられないのだ」(情報筋)

両江道の幹部は、梅雨被害非常対策常務や国境警備隊、機動打撃隊の働きで、被害をなんとか逃れたと胸を張った。

この組織は6月29日に、中央からの指示に基づき立ち上げられ、各工場、企業所がバラバラに持っていた土嚢を接収し、鴨緑江の堤防に積み上げた。それがなければ、市内中心を流れる鴨緑江の支流、城後川(ソンフチョン)の水が逆流し、市内中心部全域が浸水被害に遭うところだったという。

一方、住民の避難誘導には失敗したと認めた。

恵山市当局が所有する街宣車3台を動員して、市民に緊急避難を呼びかけたが、「家も財産もすべて流されるのなら、自分も流されて死ぬ」と指示に従おうとしなかったという。

被害の全貌は明らかになっていないが、下流の平安北道(ピョンアンブクト)では、少なくとも1100人が亡くなったと韓国メディアが韓国政府当局者の話として伝えている。また、複数の救助用ヘリが、悪天候にもかかわらず、中洲に取り残された市民の救助を行おうとして墜落、多くの乗員が死亡した。

さらに、無事に救助された住民も、命よりも大切なテレビやミシンを捨てて逃げるように指示された。「飛行場で元帥様(金正恩氏)が見ておられるぞ」と言われ、泣く泣く従わざるを得なかったようだ。恵山の事例を考えると、金正恩氏がいたことによって、結果的に避難が比較的スムーズに進み、多くの人命が守られたと言っても過言ではないだろう。

市場への弾圧で庶民から金持ちに至るまで、多くの国民を恨みを買っているであろう金正恩氏だが、たまには役に立つようだ。

救出され飛行場に到着した罹災者と遠くで見守る金正恩総書記(画像:朝鮮中央通信キャプチャー)


(出典 news.nicovideo.jp)