ここにもエコがある。

地球温暖化や気候変動への世界的な取り組みが進む中、2022年の日本では、環境に配慮した船が続々登場しました。LNG、アンモニア、電気、風--脱炭素に向けた動力革命へのチャレンジが続いています。

船の世界が一番進んでる? 脱炭素へのチャレンジ続々

地球温暖化や気候変動への世界的な取り組みが進む中、2022年はGHG(温室効果ガス)の排出削減を意識したさまざまな船舶が登場しました。今年を象徴する5隻を紹介します。

世界初 ピュアEVタンカー

旭タンカーが運用する世界初のピュアバッテリータンカー「あさひ」(492総トン)は3月に竣工しました。建造ヤードは内航タンカーで豊富な実績を持つ興亜産業(香川県丸亀市)。川崎港を拠点とし、東京湾内で外航船に燃料補給を行うバンカリング船として活躍しています。

船内には大容量リチウムイオン電池(容量3480kWh)を搭載。バッテリーから供給される電力で、船体を動かすアジマススラスターサイドラスターを駆動させています。航行や離着桟、荷役、停泊中の船内電源といった船の運用に必要な電力を全てバッテリーで賄うことができ、CO2二酸化炭素)を排出しないゼロエミッション運用を実現しました。

乗組員が船の操作を行うブリッジは、操船性の向上を図りつつ、運航時の負担を軽減するため着座式となり、船のオペレーションに必要な作業をコックピットから行えるようになっています。

現在、2番船の「あかり」が井村造船(徳島県小松島市)で2023年の竣工を目指して建造中です。

燃料を運ぶ船からクリーンに

日本郵船は同社初となるLPG(液化石油ガス)燃料の大型LPG運搬船「LUPINUS PLANET」の命名式を、9月2日川崎重工業の坂出工場で実施しました。従来の燃料油焚きに比べ、排気ガス中のSOx(硫黄酸化物)が85%以上、CO2が15%以上削減できるのが特長。同船はLPG元売り大手アストモスエネルギーが用船しています。

新造VLGCは、上甲板にカーゴタンクから独立したLPG燃料タンクを装備することにより、貨物とは別に燃料用のLPGを積載することを可能にしました。これにより、船の大きさを維持しながらも、LPG燃料による航続距離の伸長を実現。また、積荷と性状の異なるLPGの補給や、揚荷するLPGとの明確な区別が可能だとしています。

日本郵船川崎重工にLPG燃料の大型LPG・アンモニア運搬船も発注しているほか、日本シップヤードなどと共同でアンモニア燃料のアンモニア輸送船の開発も進めています。

大型投資! 清水建設の巨大船

清水建設が造船大手のジャパンマリンユナイテッド(JMU)に発注していた世界最大級の自航式SEP船(自己昇降式作業台船)「BLUE WIND」(2万8000総トン)が、報道関係者に公開されたのは10月5日でした。

この船は、洋上に巨大な風車などからなる風力発電所を建設するための作業船です。清水建設は、風車本体の調達から設置工事までを含む洋上風力発電施設工事の市場規模を5兆円超と試算。洋上風力の需要拡大と大型化に備え、約500億円を投資して同船を導入しました。

BLUE WIND」の全幅は50m、全長は142mで、搭載されたクレーンの最大揚重能力(吊り上げ能力)は2500トン、最高揚重高さは158mと世界有数の性能を誇っています。

作業時には4本の脚を海底に着床させ、船体をジャッキアップさせることで海面から切り離し、波浪に左右されない作業条件を確保。水深10mから65mの海域での作業に対応しており、海が荒れて波が高い時でも、安定した姿勢で工事ができることが強みです。

実際に洋上風力発電施設の建設現場へ投入するのは2023年3月。ウェンティ・ジャパンが計画している富山県入善町沖で、3メガワット風車3基の施工を実施する予定です。

船首にそびえる巨大な「帆」 現代の風力船

“硬翼帆”と呼ばれる巨大な風力推進装置「ウインドチャレンジャー」を搭載する石炭船「松風丸」(10万重量トン型)は10月7日に、大島造船所(長崎県西海市)で商船三井に引き渡されました。同船は主にオーストラリアインドネシア、北米などから東北電力火力発電所向け石炭輸送に投入されています。

その船首には、高さ最大53m、幅15mの伸縮可能な硬翼帆を1基設置。素材は軽量なGFRP(ガラス製繊維強化プラスチック)で、帆全体の面積を大きくすることによって、推力への利用を最大化しました。風の強さや向きをセンサーで感知し、展帆や縮帆、回転といった動きを自動で行うことで、風力を効率的に利用できるようにしています。

GHG削減効果は従来の同型船と比較し、日本~豪州航路で約5%、日本~北米西岸航路で約8%を見込んでいます。

商船三井は木質ペレットを輸送するバルカーにも「ウインドチャレンジャー」搭載することを計画しているほか、硬翼帆を複数取り付け、船内で水素を生産する「ウインドハンター」の構想も明らかにしています。

船旅どう変わる? 日本初のLNG燃料フェリー

商船三井グループの「フェリーさんふらわあ」が大阪~別府航路に投入する国内初のLNG(液化天然ガス)燃料フェリーさんふらわあ くれない」は12月16日に、三菱造船から引き渡されました。建造ヤードは三菱重工業下関造船所。2023年1月13日の就航に向け、習熟航海などを行っています。

この「さんふらわあ くれない」は、船旅そのものを楽しめるようにする豪華な内装のほか、LNGとA重油の両方を燃料として使用できるデュアルフューエルエンジン(DF)を併せ持った最新鋭の船です。

主機関には欧州舶用メーカーのバルチラが開発した4ストロークエンジン「バルチラ31DF」を、発電機にはヤンマーパワーテクノロジーの「8EY26LDF」を搭載。LNG燃料タンクは船体後部の甲板上に置かれています。

LNG燃料は従来の燃料油に比べてCO2で約25~30%、SOxでほぼ100%の排出削減効果が見込めるため、商船三井グループでは「今すぐ実現可能なGHG排出削減の取り組み」として内航・外航問わずLNG燃料船の導入を進めています。

2番船の「さんふらわあ むらさき」も2023年4月の就航を目指して、艤装を行っています。

世界初のEVタンカー「あさひ」(深水千翔撮影)。


(出典 news.nicovideo.jp)