文化が違いますから

「昔はプーチン大統領に悪いイメージがなかった。でも今は…」ウクライナ避難民の17歳少女が“ロシアの侵略”に思うこと から続く

ズラータ、あなたは日本に行くのよ!」

 2022年3月16日の朝、ウクライナのドニプロで暮らす当時16歳ズラータ・イヴァシコワさん(17)は、母親からそう告げられた。『ウクライナから来た少女 ズラータ、16歳の日記』(世界文化社)は、日本に憧れるウクライナの少女が、戦時下のウクライナから日本までの逃避行を描いた日記を元にした作品だ。

 現在は日本語学校に通うズラータさんに、日本に興味を持った理由や、日本に来てからのこと、ウクライナと日本の違い、そしてこれからのことを聞いた。(全2回の2回目/1回目から続く)

◆◆◆

日本への関心を深めるきっかけになったもの

――日本に来るにあたって、日本が好きで日本に来たいという思いがあったとのことですが、その原体験はおばあさんの家にあった日本語学習書だそうですね。

ズラータ・イヴァシコワさん(以下、ズラータ) そうです。一番のきっかけですね。

――それ以前に日本のイメージはありましたか。

ズラータ そんなになかったです。「漢字がある言語」というイメージだけですね。歴史の授業で第2次世界大戦の内容に日本も出てきて、そこに戦後の日本の歴史も少し書いてありました。でも、細かくは学んでいません。

――その状態から、日本語学習書に出会ったことで、日本に対する関心を深めていくわけですね。その後、日本へのイメージを前進させるきっかけになったものってありますか?

ズラータ 初めて読んだ日本の漫画『文豪ストレイドッグス』です。

漫画BLAME!』やアニメ攻殻機動隊』に影響を受ける

――著書にも書いてありましたね。初めての漫画だったんですか?

ズラータ そうです。ネットで見た時に絵が好きになって買ったんですけど、最初に読んだときはそれほど内容を理解できませんでした。でも、いろいろと言葉を調べて、もう一回読んだら内容もすごく好きになりました。

――『文豪ストレイドッグス』に出てくる、小説家・文豪たちはご存知なかったんですよね。

ズラータ 知らなかったですね。ウクライナでは、日本の作家についてそんなに多くを学ばないので。

――その他、ご自身に影響を与えた日本のコンテンツは何がありましたか?

ズラータ 他にもいろいろな漫画を読んでいて、例えば『BLAME!』という古いSFが印象に残っています。それを書いた作家(編注:弐瓶勉氏)は、元々建築が専門なので、背景がすごかった。

 アニメだと『攻殻機動隊』が好きで、あのような背景を自分でも描いてみたいと思います。

ネットで漫画を注文するときは、自分で日本語を調べて注文

――攻殻機動隊は色々アニメ化されていますが、映画の方ですか?

ズラータ はい、1995年のものです。

――押井守監督の作品ですね。ウクライナでも知られている映画だったんですか?

ズラータ ウクライナではそれほど知られていないです。でも、このジャンルを好きな人なら多分知っていると思います。まあ、『DEATH NOTE』のほうが有名ですけど。

――そういった日本の情報は、ウクライナでどうやって集めていました?

ズラータ 大体ネットですね。ネットで情報を調べると、ロシア語のサイトが見つかります。ウクライナ語のサイトもあるんだけど、ロシア語よりは少ないんです。でも実際に漫画を注文するときは、日本語で調べました。

――詳しい友達が周囲にいたわけではなくて、自分でネットで調べたんですね。

ズラータ アニメが好きな友達はいましたけど、日本語を学んでいる友達はいなかったので、相談できなかったんです。

日本ウクライナの文化の違い

――先程、ウクライナにいた時に抱いていた日本のイメージについて聞きましたが、実際に日本に住んでみて良かった点はどんなところですか?

ズラータ 例えば、今住んでいるアパート水道水の味も、ウクライナとは違うんですよ。ウクライナ水道水は変な味がして、水が流れるパイプも古い。

 あと、細かいことなんですけど、ゴミを分別することとか。そういうのはウクライナにも見習ってほしいです。

――逆に想像と違ったことってありますか?

ズラータ 日本に来る前から日本の鉄道に興味があったんですが、地下鉄の中が暑いことはイメージと違っていました。ドニプロでは、夏に気温が30度になっても地下鉄に入ると結構涼しいから、上着を持っていったほうがいい。でも、日本の地下鉄10月でも暑い。

――ウクライナの方が日本より良かったと思う点はありますか?

ズラータ 広いことです。ウクライナでは、道端でひとつの建物の写真を撮る時、他の建物が写らない場所がいっぱいあります。でも日本だと、私が学校まで行く道はすごく狭くて、2人並んで歩くのも難しい。

 あと、ウクライナで住んでいた家は高さがあって、遠くの景色も見えました。でも今はそんなに高い場所に住んでいません。そういうのはまだ慣れていないかもしれない。

――少し話がズレますが、日本のネットでは、ウクライナに寿司屋が多いという話題に関心をもたれています。実際にウクライナには寿司屋が多いんですか?

ズラータ そうですね。最近はドニプロにも増えてきて、いろいろな場所にお店があります。私の家族は誰かの誕生日とかをお祝いをする時、寿司を頼んだり、寿司屋に入ったりします。20年やっているレストランもあって、そこでも美味しい寿司が食べられます。

――どういった寿司が食べられていましたか?

ズラータ ヨーロッパ風というか、アメリカ風の寿司です。クリームチーズサーモンが入っていたり、結構種類が多い。寿司は他の日本料理よりも有名で、ステレオタイプ日本料理イメージになっています。

――なぜ、寿司がウクライナの方に受け入れられたと思いますか?

ズラータ どうやってウクライナに寿司が来たのかはわからないけど、自分の国にない面白い、しかも美味しい食べ物だったからだと思います。ヨーロッパの国の食べ物だとウクライナと共通点があるけど、日本の寿司は新しい味だから、受け入れられたんじゃないかな。

将来はアニメーションに関わる仕事がしたい

――今はひとり暮らしで、横浜の学校に通っているそうですね。日本での生活には慣れましたか?

ズラータ ウクライナお母さんと住んでいるときも自分で家事をしていたけど、ここまでやるのは初めてだから、まだ正しいやり方がわからない。でも、それ以外のことには慣れてきました。

――これから大学に進学して卒業した後、日本で活動をされるのか、もしくはウクライナに戻って関連する活動を続けるのか、どちらを考えていらっしゃいます?

ズラータ 日本で就職したいと思っています。ウクライナには休みの時とかに戻って、お母さんと過ごしたいです。

――著書の中では、将来、漫画家を考えられているとありました。

ズラータ 今は漫画家も含めて、絵を描く仕事全般を考えています。日本に来たときは漫画家だけを目指していたんですが、今はいろいろな仕事をしてみたいです。

――さきほど就職と言われたので、漫画家みたいな個人のアーティストではなく、どこかに所属されるということですか?

ズラータ アニメーション会社とかを考えています。入学した学校のデザイン専攻の中にアニメーションの授業もあって、そういう仕事もやってみたいので。小さい時から絵を描くのが好きなので、それに関わる仕事がしたいです。

――今後、ご自身の戦争体験を伝えていきたいですか。

ズラータ そうですね。そういう体験は将来、作品の元になると思います。私の友達はハルキウ出身で、ロシア侵攻ではドニプロよりもっとひどい状態にあったんです。だからその話を細かく聞いて、作品に取り入れるかもしれません。でも、皆さんには物語でしかそういう体験をしてほしくないです。

撮影=杉山拓也/文藝春秋

「いよいよロシアの侵攻が始まったの」朝4時に爆音、スーパーには長蛇の列が…ウクライナ人少女が明かす“戦時下のリアル” へ続く

(石動 竜仁)

ズラータ・イヴァシコワさん ©杉山拓也/文藝春秋


(出典 news.nicovideo.jp)

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