カナダ出身、人種差別主義の「陰謀論者」
米下院の議長を延べ19年間務めてきたナンシー・ペロシ下院議長(民主、カリフォルニア州選出=82)のサンフランシスコ市の私邸に10月28日未明(午前2時半過ぎ)、暴漢が侵入、議長は不在だったものの、夫のポール氏(82)が負傷した。
凶器は銃ではなく、ハンマーだった。
ポール氏は頭部と右手をハンマーで殴られた。命に別状はないというが、高齢だけに心配だ。急遽病院に搬送された。
同氏によると、容疑者は「ナンシーはどこだ」「ナンシーはどこだ」と叫びながら家中を捜し回っていたという。
どうやら警備体制は敷かれていなかったようだ。急行したサンフランシスコ市警の警官に取り押さえられた。
ペロシ氏は、2021年1月6日の暴徒化したドナルド・トランプ支持者が米議事堂に乱入した際にも下院議長のオフィスを標的にされたことがある。
政治的動機による暴力が中間選挙の最中、顕在化してきた。一部トランプ支持者の行動が先鋭化しだした。
ジョー・バイデン大統領はじめミッチ・マコーネル上院共和党院内総務、マイク・ペンス前副大統領ら与野党主要政治家が「米民主主義に対する挑戦だ」と激しく非難した。
ところが、ドナルド・トランプ前大統領だけは10月30日午前現在、一切コメントしていない。
(https://news.yahoo.com/trump-spent-day-complaining-social-203536925.html)
中間選挙を10日後に控え、民主、共和両党の上下両院、州知事候補たちは選挙戦で駆けずり回っている。ペロシ氏も再選を目指して遊説中だった。
25日には、アリゾナ州知事選に出馬しているケイティ・ホブズ前同州商務長官(民主党)の選挙事務所に強盗が入る事件が起きている。
米主要紙ベテラン政治記者はこう呟く。
「暗殺されたJ・F・ケネディ大統領といい、ロバート・ケネディ司法長官といい、狙われるのはリベラル派の民主党政治家ばかり。狙うのは過激派右翼分子が圧倒的に多い」
選挙運動中の政治家が街頭で暗殺されるケースはこれまでに何度もあった。だが未明の私邸が狙われるのは珍しい。
トランプ氏は2020年の大統領選挙を「不正選挙だ」と決めつけ、いまだに「あの選挙は民主党に盗まれた」と言い続けている。
米国民の分裂は、いよいよレトリック(言葉)から行動(暴力)に訴える対決の構図になってきた。その度合いは日増しに強まっている。
何が起こるか、米国民は疑心暗鬼になっている。米民主主義に対する信頼感を失い始めているのだ。
2021年の1年間で連邦議会議員やそのその家族に対する脅迫電話・メール、物理的な脅しは9600件もあった。
連邦議会には議会警察(キャピタル・ポリス、人員2300人)がおり、下院議長らの警護に当たっているが、500人余の各議員が地元入りする際に警護するには人員不足。
地元警察が警護したり、民間の警備保障会社に委託する議員もいるという。
いずれにせよ、ペロシ氏が私邸にいたとしたら大統領継承順位第3位の政治家に危害(暗殺もあり得た)が及ぶところだった。
米議会襲撃事件の真相究明を続けている下院特別委員会のベニー・トンプソン委員長(民主、ミシシッピー州選出)は連邦議員に対する連邦政府の警護強化を要求する声明を出した。
(https://www.simpsoncounty.ms/paul-pelosi-attack-highlights-rising-threats-lawmakers-0)
トランプ追及の急先鋒、ペロシ氏を標的に
ペロシ邸を襲ったのは、サンフランシスコ近郊の大学町バークレー在住のデービッド・デパピ容疑者(42)。
カナダ・ブリティッシュコロンビア州で生まれ、20歳の時にカリフォルニア州に移住、当初は女性用ブレスレットの販売をしていた。
サンフランシスコといい、バークレーといい、リベラル派の牙城。
容疑者はそうした生活環境の中でSNSを通じて極右団体、QAnon*1の主張に共鳴、2020年大統領選の結果を全面否定する「陰謀論者」になっていったという。
*1=https://www.nytimes.com/article/what-is-qanon.html
CNN取材班によれば、デパピ容疑者は黒人やユダヤ人を忌み嫌い、米議会襲撃事件特別委員会設置に真っ向から反対(同委員会設置や委員人選はペロシ氏のリーダーシップによるところ大)。
2020年に黒人のジョージ・フロイドさんを射殺した警官を有罪にした裁判を「現代のリンチだ」と反駁する意見をフェイスブックに投稿していた。
登録しているオンラインには、超保守の「Tim Pool」、「Glenn Beck」、「Daily Wire」のほか、中国で活動禁止されている新興宗教・法輪功系の「Epoch Times(大紀元時報)」も含まれている。
また新型コロナウイルス感染症薬が開発された際には「より多くの人間を殺す毒薬だ」と主張。
服用をやめさせようとしたり、「ロシアのウクライナ侵攻の背後にはユダヤ人がおり、ウクライナ戦争はユダヤ人が仕掛けた戦争だ」と言い張る投稿を繰り返していた。
知人によると、薬物依存に苦しんでいたともいわれる。
不気味なトランプ氏、連鎖反応に危機感
すでに触れたが、今回の事件、言ってみればペロシ襲撃未遂事件の背景には、トランプ氏の影がちらつく。
トランプご本人はその意図はないだろうが、容疑者はサイバー空間の中ですっかり「トランプ・カルト」の一員になってしまっているからだ。
事件発生の10月28日、トランプ氏は自前のソーシャル・メディア・プラットフォーム「Truth Social」で、襲い掛かる法的難題(特別委員会の召喚)を取り上げ、連邦裁の判事を罵り、30日に決選投票で決まるブラジル大統領選では保守派のジャイール・メシアス・ボルソナロ候補(現職)にエールを送ったものの、ペロシ邸侵入・傷害事件には一切触れなかった。
その点についてコメントを求めたメディアにも何ら回答していない。
(https://news.yahoo.com/trump-spent-day-complaining-social-203536925.html)
ところが、10月29日午後に長男のドナルド・ジュニアが「Truth Social」に次のようなコメントを書き込んだ。
「万一、民主党の面々がすべての暴力犯罪について、今回のポール・ペロシ(暴行、殺人未遂)事件に対するように強い関心を持っていたならば、この国はどれだけ安全か。民主党はあなたたちのことなど少しも考えてはいない」
(Imagine how safe the country would be if Democrats took all violent crime as seriously as they’re taking the Paul Pelosi situation. They simply don’t care about you.)
同じ内容のコメントはツイッターにも投稿された。父親の意向が反映されていることはまず間違いなさそうだ。
識者の間には、あと10日の間にペロシ邸侵入事件の連鎖反応が起こるのではないか、といった懸念が広がっている。
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(出典 news.nicovideo.jp)
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