(藤 和彦:経済産業研究所コンサルティング・フェロー)
ロシアが中国からの輸入を急回復させている。
中国からの輸入は今年(2022年)3月から前年同月を下回り続けていたが、7月になって増加に転じた(前年比2割増)。品目別に見ると、輸入全体の2割を占める一般機械などが20%、1割弱を占める輸送機械が43%増加している。
ロシアから中国への輸出は資源エネルギーを中心に好調だったが、西側諸国の制裁の影響で中国からの資本財や日用品の輸入は大幅に減少していた。中国製品の輸入減が引き起こすインフレに悩まされてきたロシア経済にとっては朗報だが、7月に入ってなぜ中国からの輸入が増加に転じたのだろうか。
中国の輸出企業の人民元決済シフトが進む
ウクライナ危機後、ロシアから中国への輸出決済の相当部分は人民元に切り替わったが、ロシアへの輸出を手がける中国企業は、従来の商慣習(大部分がドル決済)を理由に人民元決済への切り替えを渋っていた。このため、西側諸国の制裁が障害となってロシアへの輸出が減少していた。ところが、最近になって中国の輸出企業の決済が人民元にシフトできる環境が整ったことがプラスに作用した。
その際、重要な役割を果たしたのが、中国政府が2015年から稼働させている人民元の国際銀行間決済システム「CIPS」だ。CIPSには今年6月時点で1341の銀行が参加しており、日本のメガバンクやドイツ銀行、JPモルガン・チェースなど欧米の主要銀行が名を連ねている。
このCIPSに「SWIFT」(銀行間の国際的な決済ネットワークである国際銀行間通信協会)から排除されたロシアの銀行が大挙して接続したことで、中国の輸出企業の人民元決済シフトが進み、中国からロシアへの輸出が急速に回復したというわけだ。
7月中旬時点でロシアの銀行は23行がCIPSに接続しており、国営ガスプロム傘下のガスプロムバンクも接続準備を進めている。
SWIFTが調べた中国大陸以外での人民元決済の比率は、ロシアでは4月に0.6%だったが、7月に3.9%と急上昇した。地域別のランキングでも、香港(71%)、英国(6%)に次ぐ第3位となっている。
存在感を高める人民元の今後
モスクワ取引所は8月上旬、中国人民元建て債券の取引を開始した。最初に取引された人民元建て債券は、2027年を満期とするロシアのアルミ大手ルサールが発行する2つの社債である。それぞれ20億元(2億9622万ドル)規模だった社債のすべてを、ロシア国内の投資家が購入した。
ロシアではドルやユーロ市場へのアクセスが限定的となっており、今後も多くのロシア企業が国内で元建ての借り入れを増やすことが見込まれている。
ロシアへの制裁を奇貨として存在感を高めている人民元だが、過大評価は禁物だ。
SWIFTによれば、今年6月の人民元の国際決済シェアは2.2%で世界第5位に過ぎない。首位のドル(41.2%)や第2位のユーロ(35.6%)との差は大きい。資本取引が規制されている人民元はハードカレンシーの要件も満たしていない。
今後もシェアを徐々に拡大するだろうが、短期間のうちにドルやユーロを脅かす存在になる可能性は低いというのが一般的な評価だ。
自国通貨を決済通貨にするロシア、インドの試み
中国との間で人民元決済を進めているロシアは、自国通貨ルーブルを決済通貨にする取り組みも始めている。
ロシアは2014年のクリミア併合後、金融メッセージシステム(SPFS)と呼ばれる銀行間通信システムを稼働させており、現在、ロシアとアルメニア、ベラルーシ、カザフスタン、キルギスで構成するユーラシア経済連合の銀行間で次第に使われるようになってきているという。
ロシアはさらにウクライナ危機を契機に、「非友好国」に対して自国産天然ガスの代金をルーブル建てで行う動きを強めている。そのせいもあってか、ウクライナ侵攻直後に暴落したルーブルの対ドルレートは現在、侵攻前を超える水準にまで上昇している。
ロシアはイランとの間でも2国間の通貨を用いた決済システムの構築に努めている。
イラン通貨取引所は7月、ルーブル・リヤルの通貨ペアを上場させたことで、両国はそれぞれ自国の通貨で取引債券を決済できるようになった。これにより、ロシアとイランは西側諸国の制裁で国際的に孤立する中、昨年の貿易額(40億ドル)を早期に80億ドルに倍増させることを目標に掲げている。イランはこの取り組みをトルコのリラやインドのルピー、アラブ首相国連邦(UAE)のディルハムなどにも利用できるようにしたいと考えている。
このところ急速に存在感を高めているインドも、自国通貨ルピーを決済通貨に仕立て上げようと虎視眈々だ。
インド準備銀行(中央銀行)は7月中旬、他国とのルピー建てによる貿易決済制度を認可した。ルピーでの決済制度を利用する際には、市中銀行は事前に中央銀行の認可を取得し、専用のアカウント(銀行間取引の現金決済口座)を開設する必要があるが、これにより、ロシアやスリランカなど、ドルなどの通貨での決済が困難な国との間でルピーでの取引が可能となる。
インド政府も輸出業者にルピーによる決済を促すためのインセンティブを提供しようとしている。現在、ドルやユーロといった完全な対外交換可能通貨に適用されている貿易支援プログラム(輸出業者は支払い義務が生じた税金や関税の一部払い戻しが受けられる)の対象に、ルピーを追加するための準備を進めている。
かつてなく低下した西側諸国の国際社会への影響力
このように、新たな決済通貨の構築を巡る動きがにわかに活発化しているが、これらのシステムはSWIFTに比べると「処理速度が遅い」「コストが高い」「エラーが起こりやすい」といったデメリットが指摘されており、その導入・拡大は決して容易ではない。
だが、歴史を振り返れば、国際通貨の興亡は、戦争や危機など大事件をきっかけに非連続的に生じてきた。
ウクライナを巡る戦況は予断を許さないが、この半年間でわかったのは西側諸国の国際社会に対する影響力がかつてなく低下したことだ。
このことが最も顕著な形で現れているのは、西側諸国のかつての植民地だったアフリカだ。通貨主権を独占する西側諸国は決済網などを武器に睨みをきかせてきたが、今回のウクライナ危機でアフリカのほとんどの国がその制裁に従っていない。
「2050年に人口が25億人に急増する」と推計され、「最後のフロンティア」とも呼ばれるアフリカは市場として極めて有望だが、貿易額で首位を独走する中国と、武器や食糧などを供給するロシアの存在感が大きい。ウクライナ危機が長引けば長引くほど、実利を求めるアフリカの軸は西側諸国からロシアや中国へと一段と傾きかねない状況にある。
アフリカの決済通貨はこれまでドルやユーロが独占してきたが、中国やロシアなどが代替となる国際決済システムを構築し始めたことで、今後「通貨を巡る構図」が大きく変わる可能性が出てきているのではないだろうか。
決済通貨が多様化したとしても、ドル覇権が短期間に終わりを告げることはないだろうが、世界の金融経済システムは今、岐路に立っている。「10~20年というタイムスパンでどのように変容していくか」を虚心坦懐に考察していくことが何よりも重要だろう。
[もっと知りたい!続けてお読みください →] 対ロ制裁は効いているのか?
[関連記事]
V字回復したルーブル相場、ロシア経済は本当に制裁で弱体化しているのか?
攻勢に出る戦力がなくなったロシア軍、11月までに火砲使い尽くす?

(出典 news.nicovideo.jp)
| スク水洋一 もし人民元とルーブルで世界経済を支配するなら、米国との経済戦争に完全勝利し、米ドルを基軸通貨から外す以外に方法は無い。アフリカ諸国は支配者が現在の欧米から中露に変わるだけで、事実上経済植民地支配されている現状は、搾取が更に厳しくなり今以上に餓死者が続出すると思う。 |
| 水月 ドル+ユーロが現在も70%以上を占めているとはいえ、今回の金融制裁が欧米によって今後も武器として使われる可能性が出てしまったから、欧米が嫌な国や以降に振り回されたくない国々の受け皿として今後伸びていってしまう可能性がありますね。 |






コメント
コメントする