新たなレジが誕生するのかな?

 これからの日本は新しいテクノロジーをどんどん導入して、人手不足解消を目指すとともに、生産性も上げていくべきだ――という話が叫ばれようになって久しい。

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 大変喜ばしいムードではあるのだが、一方でムードに流されやすい国民性からか、現実とかけ離れた理想だけを掲げて空回りしてしまっているケースも多い。つまり、とにもかくにも新しい技術を導入すれば全て解決だと言わんばかりに、現場にそぐわないようなシステムを採用した結果、現場が混乱に陥って、サービスの利用者やそこで働く人たちをゲンナリさせてしまうのだ。

 その分かりやすい例が、「セルフレジ」だ。

 Yahoo!ニュースITmedia ビジネスオンラインが共同で企画したオンライン調査では、なんと77.8%がセルフレジを「積極的に使っている」または「たまに使う」と回答している。「スキャンし間違えないか不安」「使い方がよく分からない」などの声もあったが、基本的には多くの消費者から受け入れられている。

 専門家によれば、スマホバーコードを読み取るスタイルや、商品を入れた買い物カゴを置くだけで会計できるような技術もあるので、セルフレジは今後さらに普及して、スーパーなど小売店の人手不足や生産性向上に貢献していくという。中には近い将来、「レジ打ち」という職業自体が消滅すると主張するような人もいる。

 という話を聞くと、「どこが空回りだ! すっかり市民権を得ているじゃないか。貴様のようにとにかく新しいものを反対するような人間がいるから、日本はいつまでもたってもイノベーションが起きないのだ」と怒る人もいらっしゃるが、実際に「セルフレジ」の導入を進めている現場からは「市民権を得ている」とは言い難い実態が浮かび上がる。

●働く人たちをゲンナリさせている

 全国スーパーマーケット協会など3団体が公表している「2021年スーパーマーケット年次統計調査報告書」によれば、全国278企業の中でセルフレジの設置率はなんと23.5%しかない。「アフターコロナだ」「非接触だ」と大騒ぎしていた20年も15.8%に過ぎないのだ。

 その理由は企業規模ごとの設置率をみていけばよく分かる。51店舗以上を保有している大手では70.6%という高い設置率となっているが、26~50店舗の中堅になるとガクンと落ち込んで39.3%。4~10店舗という地域密着型になると12.8%まで落ち込む。つまり、消費者の間ではすっかり定着したかのように思っていた「セルフレジ」だが、それは実はイオンイトーヨーカドーのような全国展開する大企業に限った話だったのだ。

 なぜここまで大手と中小で差が出るのか。設備投資ができる資本力の差もあるが、実は大きいのは「現場で働く人をゲンナリさせている」からだ。

 それがよく分かるのが、「セルフレジ導入で人手不足解消のはずが、逆効果に? その事情を担当者に訊いてわかった意外な理由とは」(デイリー新潮 8月28日)という記事だ。東海地方を中心に展開するスーパーチェーン「バロー」のある店舗で、セルフレジコーナーが閉鎖されてしまったのだが、それはなんと「セルフレジ係」が体調不良で休んでしまったからだというのだ。

 ご存じのように、セルフレジというのはまったく無人ではなく、必ず近くに数名のスタッフが待機して、かなり忙しく働いている。機械の操作が分からない人をサポートしたり、読み取りや釣り銭のエラーがでたときの操作だったり、スキャン後にやっぱり買わないという商品のキャンセルをしたり、レジ袋が足りているかをチェックしたり、駐車場サービス券の発行をしたり、さまざまな仕事があるのだ。

 これが現場で働く人たちをゲンナリさせている。

●仕事が増えたのに賃金は上がらない

 当たり前だ。これまではレジを打つことが仕事だった人たちが、セルフレジが導入されたことで、機械の操作やエラーが出たときの対処法を新しく覚えなくてはいけない。システムは日進月歩するので、そのたびに新しい知識をインプットしなくてはいけない。

 さらに、これまではレジカウンターで自分自身で商品をスキャンをしていただけだったのに、そこに「初心者に使い方を教える」というレジ打ち以外のスキルも求められるようになる。相手が高齢者などの場合は、丁寧で分かりやすい説明を心がけなくてはいけない。

 このようにセルフレジ導入によって、現場で働く人には「新しく覚える仕事」が増えているわけだが、セルフレジを入れたので賃金を上げた、という話はほとんど聞かない。

 イオンイトーヨーカドーなど大型スーパーならば従業員もたくさんいるので、「セルフレジ専従」をつくる余裕があるだろうが、中堅のスーパーや地域密着型のスーパー人手不足によって、通常のレジ係が兼務するケースが多く、シンプルに「お金にならない新しい仕事」を増やすだけになっている。

 つまり、中小のスーパーで働く人にとって「セルフレジ」の導入は、業務の負担を減らすどころか、逆に賃金をあげることなく現場の負担を重くしている側面があり、かなりゲンナリするものなのだ。

●セフルレジが普及しない背景

 こういう話をすると、流通やテクノロジーの専門家は「それは今のセルフレジの技術がまだ中途半端だからだ」という見方を示すことだろう。イオンのレジゴーや、アマゾン無人決済スーパーAmazon フレッシュ」のようにもっと簡単に無人決済できるシステムが普及すれば、「セルフレジ係」なんて人さえもいらなくなって、業務の負担を減らすどころか、スーパーで働く人の数を大幅に削減できる、と。

 しかし、筆者はいくら無人決済技術が進歩したところで、この国においてはそこまでバラ色の未来は待っていないと思っている。

 実は日本のスーパーでセルフレジが23.5%しか設置されていないのは、現場で働く人たちがゲンナリしていることに加えて、もうひとつ「お得意様」からもあまり評判がよくないことが大きい。

 それは「1人暮らしの高齢者」だ。

 ご存じのように、日本は世界最速のペース高齢化が進んでいる「老人大国」だ。総務省の『令和2年国勢調査』によると、高齢者率は28.7%で、この割合は世界の中でもっとも高い。65歳以上の高齢者は3533万5805人、そのうち「1人暮らしの高齢者」は671万6806世帯で、総世帯数に占める割合は12.03%となっている。この割合は今後さらに上がっていく見込みだ。

 このように「世界一高齢化社会」になることが決定している国で、セルフレジを「主流」にしていくのはかなり難しいのではないかと思っている。

 なんてことをいうと、「老人だからテクノロジーに弱いというのは差別だ! オレのじいちゃんはTikTokやっているぞ」とか「今の高齢者はスマホを使いこなしている人も多いので、教える環境さえ整えれば、セルフレジが常識として定着するはずだ」というお叱りを受けそうだが、セルフレジを主流とするのが難しいと言ったのは、そういう方面の理由からではない。

 「1人暮らしの高齢者」にとって、スーパーのレジはただ金を払って商品を購入できればいいというものではない。孤独な日常の中で、誰かと「会話」ができる非常に貴重な場となっている現実があるのだ。

●「おしゃべり専用レジ」が話題

 日本ではまだあまり知られてないが、世界ではポジティブサイコロジーという言葉があって、人の精神状態、特に孤独が健康長寿に大きな影響を与えることが分かっている。

 そこで孤独対策のひとつとして、誰もが毎日のように通うスーパーの役割が注目されているのだ。例えば、オランダの大手スーパーチェーンJumbo」(ユンボ)は21年9月、「おしゃべり専用レジ」の設置を発表した。これは、商品の支払い時に顧客が店員と世間話などを楽しむことを目的としたレジで、1年をかけて全店舗の約3割に相当する200店舗に導入を進めている。

 もちろん、スーパーには急いでいる人もいるので、そのような人たちは通常のレジカウンターやセルフレジを利用する。あくまで店員とのコミュニケーションを楽しみたい、ゆっくり会計をしたい人向けの専用レーンという位置付けなのだ。

 では、この「おしゃべり専用レジ」のメインターゲットはどんな人たちかというと、もうお分かりだろう、高齢者だ。実はオランダでは、75歳以上の高齢者の33%がなんらかの孤独を感じている調査もあって、政府が孤独対策プログラムに力を入れており、「Jumbo」もそれに協力しているのだ。

 『平成30年版高齢社会白書』(内閣府)によれば、オランダ高齢化率は18.5%(17年)で、日本に比べるとまだかなり低い。が、実は日本のように「2世帯同居」という風習がないので、パートナーと別離すると即座に「1人暮らしの高齢者」になるので、その割合は日本以上の4割弱にもなっているのだ。

 もちろん、「孤独」は高齢者だけの問題ではない。オランダ以外の国でも「今日1日、誰ともしゃべらなかった」という人が唯一、生きた人間と言葉と交わす場所として「有人レジ」の役割が見直されているのだ。

 『フランスでは、カルフールなど大手スーパー各社が、長引くパンデミック中の孤独感軽減対策として「おしゃべりレジ」を開設する動きが広まっている。このレジで会計を済ませる人たちは、列の後ろに並ぶ人の目を気にせずに、レジ係としばらく世間話をしてもいい、という趣旨だ。今年1月から始まったこの動きは全国に広がりを見せ、すでに150の「おしゃべりレジ」が開設されたという』(NewsWeek 2022年2月17日)

●足元にある課題

 先ほど申し上げたように、これからの日本は「2025年問題」なんて危機が指摘されていることからも分かるように、「1人暮らしの高齢者」が爆発的に増えて、そこかしこに「今日1日、誰ともしゃべらなかったな」という孤独の老人があふれかえるはずだ。

 「高齢者うつ」という問題も深刻化する。孤独で体を壊す高齢者が増えれば医療費も雪だるま式で跳ね上がる。国や行政が「地域コミニティーに参加しましょう」「人とのつながりを持ちましょう」と呼びかけても、孤独な老人はそれができないから孤独なのだ。そうなると、どんなに孤独な人でも生きていくには必ず利用するスーパーでのコミュニケーションが非常に重要になってくる。

 つまり、孤独な老人があふれかえるこれからの日本のスーパーで必要なのは、誰ともしゃべることなくスピーディーに会計できるセルフレジなどではなく、「今日はいい天気ですね」なんて世間話を店員と交わしながら、常連客としてつながりを持てるような「おしゃべり専用レジ」なのだ。

 事実、日本のスーパーの中にも先見性のあるところは、そのような未来を見据えた動きをしている。例えば、岩手県滝沢市にあるスーパー「マイヤ滝沢店」では、高齢者向けの「スローレジ」を設置して、高齢者がゆっくりと買い物ができるような工夫をしている。

 ただ、「セルフレジ」に比べるとこちらはまったく市民権を得ていない。冷静に考えると、これはかなり不思議なことではないか。

 日本は世界一スピード高齢化が進んでいることで、高齢者向けのビジネスでは他の先進国から「トップリーダー」として注目されている。本来は、日本の大手スーパーなどが先に「おしゃべり専用レジ」を設置して、それを見た海外が「おお、さすが高齢化社会の日本だ!」と真似されるのが自然の流れだ。

 しかし、現実は逆だ。オランダフランスの大手チェーンがいち早く、スーパーにおける高齢者の孤独対策に着目して、それを推進しているのに、高齢化待ったなしの日本の大手チェーンは、自分たちの足元にある課題から目を背けて、「無人決済」を進めている。このスタイルは移民大国で人種もバラバラ、人口も増え続けている米国だからマッチしているのであって、人口減少・高齢化の日本が形だけ真似しても上スベりするだけだ。

●レジ係の未来

 では、高齢化社会の日本で「セルフレジ」を新しい常識として定着させることが難しいというのなら、スーパーはどうやって人手不足に対応していけばいいのか。まずやるべきは「セミセルフレジ」だ。

 これは「セルフ精算レジ」とも呼ばれるもので、商品のスキャンは係の人にやってもらった後、精算だけを機械で自分で行うスタイルのレジだ。これならば、現金の受け渡しなどをしないのでレジ係の負担は大幅に減るし、「1人暮らしの高齢者」もレジ係の人と会話をすることもできる。孤独対策と効率化を両立する、日本向きのスタイルと言えなくもない。

 スーパーの設置率がそれをよく表している。先ほどの「2021年スーパーマーケット年次統計調査報告書」によれば、セミセルフレジ設置率は72.2%で、51店舗以上の大手は94.1%だが、4~10店舗の地域密着型でも71.8%、1~3店舗の地域スーパーでも58.0%となっている。

 つまり、地域の「孤独な高齢者」たちがよく利用して、レジ係との何気ない会話を楽しみにしているようなスーパーであっても、セミセルフレジは活用できるということだ。

 個人的には、このセミセルフレジを常識として定着させながら、レジ係とゆったりと世間話ができる「おしゃべりレジ」の割合を、それぞれの地域の高齢者率に見合う形で増やしていくべきではないかと考えている。

 もちろん、セルフレジでスピーディーに誰とも会話をせずに買い物をしたい人がいてもいい。そういう人たちは次世代セルフレジでも無人決済でも宅配でも使えばいい。

 しかし、これからの日本のスーパーには、「モノを買う場所」以外の役割も求められる。高齢者がレジでモタモタしながら店員さんと会話を交わすという、若い人たちがイライラしそうなやりとりにこそ、「価値」があるような場所になっていく。

 ちょっと前までテクノロジーの進化によって、いろいろな職業がいらなくなるという話が大流行りだった。しかし、まだ現時点では、人の孤独を癒すことができるのは、人とのつながりしかないという現実もある。

 スーパーのレジ係も消滅する職業だと言われている。だが、もしかしたら消滅するのは「レジを打つ人」だけであって、「客とコミュニケーションを取って孤独を癒す人」という職業に関しては、これからも求め続けられていくのかもしれない。

(窪田順生)

なぜスーパーで「セルフレジ」が定着しないのか


(出典 news.nicovideo.jp)

ゲスト

ゲスト

セルフレジをまともに使える人が少ないのが原因だな 客の10割が聡明だとはかぎらない(説明が目の前に書いてあってもまともに使える人は4割ぐらい) 残りは操作が拙いか機械を壊すまである

ゲスト

ゲスト

とくにジジババに機械の操作を強いるとか結果が見えてるだろ?

閲覧用

閲覧用

いや一番のお得意様はファミリー層だろw一回6000円以上は使ってくれる。セルフレジが流行らないのは、単純にめんどくさいので有人が混んでいても並んでしまうだけの話。ジュースとサンドイッチのみとかだったらセルフ使うけど。

閲覧用

閲覧用

セルフレジを普及させたければ、有人レジはサービス料として一回10円取ればいい。10円も払いたく無い人たちがセルフレジ使うから。

miss

miss

面倒だから自分は行かないな

青い禽

青い禽

少しならいいけど量が多いと任せるだろうね。慣れてない人間だとレジするのも時間かかるし。そんでやる前からできないって言う人もいるからだろうね

ゲスト

ゲスト

人口の1/3が老人で、かつ最高権力者の国だぞ。上手く行くわけがない

 [ltr]

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「人手不足なのでセルフレジの使用を中止しました」が一番理解できる。

もじばけーしょん

もじばけーしょん

年齢性別関係無く「空いてるから」という理由で利用しようとする割りには覚える気が無い奴が多すぎるのが一番問題だと思うの

あどれす

あどれす

システム周りの導入にかなりのコストがかかるんだよね、そしてレジ袋有料化で商品裸で持ち帰る様になって頻発してる万引き見ればわかる通り万引き被害も増える事が予想される為防犯対策も強化しないといけない。コロナ前ならいざ知らず今はどこも設備投資やら出来る程金に余裕無いんじゃないかな

Rain

Rain

店員の労力軽減のためのはずなのに、使い方の分からない高齢者への対応として結局「セルフレジ専用店員」を1人つきっきりで配置するという本末転倒っぷり。だからと言って中途半端に有人レジを残してたらいつまで経っても普及しようがないし、いっそのこそ全セルフにしちゃえば客側だって否が応にも順応するしかないから少しは進歩するはず。

ゲスト

ゲスト

ご近所から周辺スーパー巡りをしたりする男ですがセルフレジがメインの所もあれば無いところもある。係りは基本一人でるし、通常のレジも併売されているのが基本なので問題になっているところ見たことがない。

ゲスト

ゲスト

セルフレジ導入店舗は、客のレジ待ちが少ない。店員より速度は落ちるが設置台数がそこそこ多く単純に手数が増えるからだろう。あれば当然便利、むしろ不便なら流行らんだろ?

てーや

てーや

レジ通してもらってる間にこちらは手荷物やほかに何買うかの整理してたりするから、セルフレジは使わないなぁ。

Ry

Ry

海外の無人レジも結局日本と同じように人置き始めたけどね。当然だけど万引き多すぎて。一時期話題だった中国の無人コンビニはでかい自販機レベルで落ち着いたし、所詮はその程度の技術よ。ここで記事書いてるような未来の技術!って言えば金出すやつら向けの広告であって、実用性なんて大してない。

soramimist

soramimist

孤独な老人がコミュニケーションするためにセルフ使わないって記事だと思うけど。そういうのは個人商店でやってって思うけど商店少なくなってそういうところスーパーが担っていかないといけないのかなぁ。個人的にはスーパーは買い物するところでそういうのは別のところでやってって思うけど。明日は我が身。

alze

alze

セルフレジを支持している人が多いのは事実だがセルフでないレジを支持している人が少ないわけではないのだな。あとセルフレジって結構管理が大変なのよな。エラーが起きた時にどういう操作してエラー吐いたのかの特定が難しいから。

ケー

ケー

店員さんが「お支払いは現金ですか?カードですか」って聞いたら「現金以外でどう払うってんだ?なあ?どう払えばいいんだ?おかしなこと言うんじゃねぇよ」ってキレてたジジイを最近見た。そんなのがセルフレジでカード会計しろってなったら機械ぶっ壊される。そんな危険がまだあるのが現状。

めんま

めんま

セルフレジ導入したのにセルフレジサポーターに2人+セルフレジ使ってもらうように呼子1人も人員割いて(他スーパーなら1人だけ)、有人レジはセルフレジ導入するために減らしたからレジが足りない、人員足りないとか意味不明なことしてるぞ。しかも呼子が買い物カゴ数個に大量に商品詰め込んでる客をセルフレジに呼び込むもんだから両方混んでカオスだぞ。

アサヒナ

アサヒナ

>Rain  これまではレジに並んだ人達一人一人順番にトラブル対応できてたのが、同時多発的にトラブル起きて、必要な人員は有人レジと変わらんかそれ以上になるだけな気がするけどな