旅をしている気分

―[貧困東大生・布施川天馬]―


 現役東大生の布施川天馬と申します。学生生活の傍ら、ライターとして受験に関する情報発信などをしています。

◆本を読むだけでも“旅”はできる

 皆さんは、最近旅をしましたか? 新型コロナの感染拡大がぶり返してきた情勢では難しいかもしれませんが、コロナ禍に世界が覆われる前には旅によく出かけていたという人もいらっしゃるのではないでしょうか。

 僕自身は旅行どころか、特にここ1か月ほどはずっと家に引きこもっており、ほぼ一歩も家から出ないという日も珍しくありません。

 それでも旅をテーマした本を読んだり、旅番組を見たりすると、ついつい外に出てしまいたくなってしまいます。

◆冒険心、探求心がくすぐられる名著

 コロナ禍がいつ収束するかまったくの未知数ということもあり、部屋にひきこもる生活を続けていると気が滅入ってしまいます。

 こんな調子では、毎日憂鬱な気分で過ごさなくてはいけません。

 というわけで、今回は旅行できない状況下であっても、少しでも外を駆け巡る爽快感を得られるように、冒険心や探求心がくすぐられるような本を3冊ご紹介します!

◆○『はてしない物語

ミヒャエル・エンデ 著(岩波書店)

 皆さん、空想小説は好きですか? あまりファンタジックな物語は好かないという人もいらっしゃるかもしれませんね。とはいえ、心に残る一冊を見つけると一気に印象が変わるのがこのジャンル

 今回、ご紹介する本は「現実の自分にモヤモヤを抱えたまま日々を過ごしている」なんて人に特におすすめしています。

はてしない物語』は、『モモ』を手掛けたドイツの児童文学作家であるミヒャエル・エンデがつくり出した冒険小説です。

◆現代の感覚でも斬新なストーリー

 主人公のバスチアン少年は肥満体系で運動音痴、臆病な上に落第生でもある男の子クラスメートからはいじめを受けており、さらに母が他界してからは家庭でも疎外感を抱くようになってしまいました。

 そんな彼の心の逃げ場所は本。

 ある日、バスチアンは学校の物置で一人、本を読み始めます。いじめから逃げた先の本屋で、操られるように手に取った赤い装丁の不思議な本。その本のタイトルは『はてしない物語』でした。

 この本の魅力は物語中盤以降の急展開にあります。詳しくはネタバレになりますから言えませんが、2022年の感覚でもビックリするような仕掛けがあり、「1979年に執筆されていたとは……」と驚かざるを得ない神がかった構成の物語です。

 児童文学ではありますが、同じ作者による『モモ』同様、大人が読んでも楽しめる一冊。幼い頃、冒険小説が好きだったという人にはたまらない読書体験となるでしょう。

◆○『空を巡る旅』

HABU 著(パイインターナショナル)

 僕は、特に落ち込むようなことがあったときや、何かスッキリしたいときなどは必ず空を見上げながら散歩をしています。浪人時代などは勉強が行き詰まると、気分転換がてら散歩に繰り出したものでした。

 その日の空模様によっては、空の観察に夢中になってしまい、15分で終わらせるはずだった散歩を2時間も続けてしまうなんてこともありました。

空を巡る旅』は、空を専門として作品を残す写真家HABU氏による写真集。彼は世界中を巡りながら、美しい空の風景をフレームに収めているプロフェッショナルです。

◆まるで絶景体験の福袋

 手がけた写真集は20冊以上にものぼっていますが、『空を巡る旅』は僕にとって思い出の一冊ですので、あえてこの本を取り上げました。

 高校生の頃、中古書店を巡っていたときのこと、普段は立ち寄らない写真集コーナーを何とはなしに覗いた際に偶然、目に入ったのがこの本だったのです。当時から空が好きだった僕は、なけなしの財布の中身を振り絞って購入してしまいました。

 この写真集の魅力は、自分がその場にいないのに、その場所の「最高の一瞬」を体験できることにあると思います。いうなれば、絶景体験の福袋のようなもので、特にHABU氏の写真からは現地の空気の質感や息遣いも伝わってくるような迫力があります。

「空なんてどこでもいっしょだろ!」と思われた方ほど、手に取っていただきたい一冊です。

◆○『深夜特急』

沢木耕太郎 著(新潮社)

 いまでこそ遠い存在となってしまいましたが、旅行はやはりいいものです。大学生になるまで、まともに旅をしたことのなかった僕ですが、大学入学後、新幹線デビューしてからは日本のあちらこちらに飛び回るのが夢となりました。

 僕は、2泊3日程度のちょっとした用事でもスーツケースをパンパンにしてしまうほどの旅行初心者なので、旅慣れている人には本当にあこがれてしまいます。特に「なんてすごいのだ!」といつも思わされるのが、ヒッチハイクや弾丸旅行ができる人です。

深夜特急』は作家の沢木耕太郎氏による紀行小説。主人公の「私」は、「インドのデリーからイギリスロンドンまで乗り合いバスで行く」という無謀極まりない計画を立て、仕事をすべて投げ出し、旅に出ます。

 もともと無計画から始まった旅、そうはうまくいきません。まず、この小説の書き出しからして「私」が「次はデリーから南下してゴアに行くべきか、それとも北上してカシミールに行くべきか」と迷うシーンから始まります。日本を出てから半年、スタート地点のデリーから一向に動きません。

◆訪れたことがなくても鮮明に浮かぶ光景

 この本の魅力は筆者の実体験に基づく、各国の描写です。僕はこの本に出会った小学生当時、外国どころか隣町の様子すら知りませんでした。

 しかし、父親の本棚にあるこの本を手に取ったとき、作中で描写されているインドの安宿の退廃的で、官能的で、人を縛り付けるような暗く重たい空気をたしかに感じ、強い衝撃を受けたことを覚えています。

 そのような宿に泊まったことはありませんし、見たことすらありませんが、あの日の僕の脳裏に浮かんだ「バックパッカーたちが沈んでいく宿」の光景は、いまだに思い出すことがあります。

「旅をしている気分になりたい!」というのであれば、僕の知る限りでは最高の一冊です。

◆「近場に目を向ける」という旅もある

 旅行がしにくい今だからこそ、逆に「外に出たい」「旅をしたい」と思う場面も増えてくるはずです。しかし、思い切った遠出はなかなかできない。ストレスが溜まりますよね。

 僕はそういった時だからこそ、あえて近場に目を向けるべきなのかと思っています。

 例えば、近所の散歩をするときに普段はスマホを凝視しながら、もしくは音楽を聴きながら通る道でも、スマホをしまってイヤホンもつけず、少しだけ目線の角度を上げて歩いてみるのです。すると、意外な発見があるかもしれません。

◆旅に出なくても新しい世界を見せてくれる

 たとえば、「この電灯って、意識していなかったけど、こういうデザインをしているのか」「信号機の配線って意外と複雑そうなんだなぁ」「あんなところに看板がある!」……どれも普段は身近にありながらも、自分が気付いていなかった、そんな要素ばかりです。

「灯台下暗し」ではありませんが、本も同様で、旅に出なくても新しい世界を見せてくれます。

 遠くに憧れる今だからこそ、改めて触れてみるのもいいかと思います。これまでは気づかなかった面白さに出会えるかもしれませんよ。

【布施川天馬】
1997年生まれ。世帯年収300万円台の家庭に生まれながらも、効率的な勉強法を自ら編み出し、東大合格を果たす。著書に最小限のコストで最大の成果を出すためのノウハウを体系化した著書『東大式節約勉強法』、膨大な範囲と量の受験勉強をする中で気がついた「コスパを極限まで高める時間の使い方」を解説した『東大式時間術』がある(Twitterアカウント:@Temma_Fusegawa

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(出典 news.nicovideo.jp)