オスロ合意から30年…イスラエルとパレスチナ「二国家共存」のゆくえは?「和平交渉を引き延ばして…」 - 文春オンライン オスロ合意から30年…イスラエルとパレスチナ「二国家共存」のゆくえは?「和平交渉を引き延ばして…」 文春オンライン (出典:文春オンライン) |
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〈「老いた1匹を殴り、蹴り、噛みついて…」〈人類とDNAの99%以上を共有〉チンパンジー同士で“殺害”が起こる「ある条件」〉から続く
約1万年前のアフリカで起きた「人類最初の戦争」から核兵器の発明と使用、ドローンなどの最新技術が投入されたロシア・ウクライナ戦争まで――。文明の進歩に伴い急速な変化を続けてきた戦争の歴史を一冊に凝縮した『戦争と人類』(著:グウィン・ダイヤー、翻訳:月沢李歌子/ハヤカワ新書)。
ここでは、本書より「イスラエル・パレスチナ問題」について一部抜粋して紹介する。(全2回の2回目/前編を読む)
◆ ◆ ◆
アラファトによって結成されたPLOパレスチナ解放機構(PLO)は、ヤーセル・アラファトによって1964年に結成された。これは、多くのパレスチナ人が住む難民キャンプで編成された武装集団の戦略を統合するためのものだった。
アラファトは、これらの集団が直接攻撃によってイスラエルを倒し、故国を取り戻す可能性はまったくないとしても、異なる目的のために彼らの実行力を活用すれば、なんらかの結果を生み出せると見抜いた。
アラファトと仲間たちは、「難民」を「パレスチナ人」という新しい属性で呼ぶことの重要性を理解していた。彼らが非アラブ人から(あるいは一部のアラブ人からさえも)、ただ「アラブ難民」とひとくくりにされてしまう限り、理論上は、アラブ世界のどこにでも再定住できるとみなされてしまう。
「パレスチナ人」というアイデンティティを認めさせること彼らが故国へ帰るための唯一の望みは、「パレスチナ人」というアイデンティティを世界に認めさせることだった。パレスチナ人と呼ぶことによって、暗黙のうちにパレスチナの土地が彼らのものであるという主張の正当性が世界に受け入れられる。
パレスチナ人が本当に存在すると世界に納得させるには、どのような活動をすればいいだろうか。もちろん通常の広告活動ではなく、衝撃的な暴力行為を実行することだ。そうすれば、メディアは必ず報道する。また、その事件を説明するために、パレスチナ人のことを話さざるを得なくなる。
1970年9月、PLOの「ゲリラ」は、4機の大型定期旅客機を同時にハイジャックして、ヨルダンの砂漠地帯にある空港まで飛行させ、乗客を降ろしたあと、世界中のテレビカメラの前で爆破した。
それに続く攻撃では多くの死者を出したが、これは合理的で達成可能な目的を持った国際テロだった。目的はイスラエルを屈服させるためではなく、自分たち自身の運命に関する議論に積極的に参加すべきパレスチナの民が存在することを世界に知らしめることだ。
1980年代後半に目的が達成されると、PLOはテロリストに攻撃をやめさせた(もっとも戦略を理解しない一部の独自路線を行く分派の集団は、独断で無意味なテロ攻撃を続けた)。その後10年間、PLOはイスラエルとの交渉による和平という目標を追求し、1993年にワシントンでオスロ合意に調印するというクライマックスを迎えた。
だが、アラファトも、その重要な交渉相手であったイスラエルのイツハク・ラビン首相も、身内の「強硬派」の力によって、みずからの行動の自由が次第に制限されるようになっていった。
強硬派は、和平調停に必要な領土や難民帰還の権利に関する譲歩のようなものを受け入れなかった。1995年にラビンが過激な右翼のユダヤ人に暗殺されると、パレスチナはテロ攻撃を再開した。このとき、イスラエルは選挙戦の最中だった。
イスラエルとパレスチナ、「二国家共存」戦略のゆくえは攻撃はPLOが仕掛けたのではなく、台頭するイスラム原理主義運動によるものだった。イスラム原理主義運動は、かつての英国パレスチナ委任統治領のごく一部にパレスチナ人の国を作るような交渉は断固拒否した。これはもうひとつの合理的で達成可能な目標を持つテロ活動である。目標とは、アラファトの「二国家共存」戦略を阻止することだった。
ハマスやイスラム聖戦機構の爆弾攻勢は、とくにバスを標的にして、多数のユダヤ人犠牲者を出した。ラビンの後継者であり、ラビン暗殺による同情票によって容易に勝利を得られると期待されていたサイモン・ペレスからイスラエルの有権者を離れさせ、ベンヤミン・ネタニヤフを支持させることが狙いだった。ネタニヤフは隠れ強硬派であり、和平交渉を無期限に引き延ばしてくれそうだったからだ。
その狙い通り、その後3年間、和平交渉は事実上、進展しなかった。それどころか、以後ずっと進展していない。両陣営の強硬派は、マルクス主義者が言う「同じ目的を持つ同盟者」であり、二国家共存による解決を妨害するという共通の目的を持ち、うまく成功している。
(出典 news.nicovideo.jp)
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