アメリカから自立することが一番です。
◆アメリカで大統領は行政府の長にすぎずない
火事は最初の5分間、選挙は最後の5分間。アメリカでも、この格言が通じたようだ。アメリカ中間選挙のことだ。
アメリカでは、4年に1度、大統領選挙が行われる。ただし、大統領は行政府の長にすぎず、日本やイギリスの首相のように、自分で法律を作ることはできない。法律とは、政治家がやりたいことの具体化。もしアメリカ大統領が法律を通したければ、議会で多数を得ていなければならない。大統領選挙が無い年に行われる議会の選挙を、中間選挙と呼ぶ。アメリカ議会は、上院と下院に分かれる。つまり、大統領は上下両院の選挙でも自派が多数を占めなければ、何もできないのだ。
上院議員は、全米50州から2人ずつ選ばれ、定数100。任期は6年で、2年ごとに3分の1ずつ改選。1つの州から同時に2人が改選されることはない。下院議員は、定数435。この定数を人口に応じて各州に配分する。2年ごとに一斉改選。
要するに、アメリカでは2年に1度、議会の選挙があり、その内、4年に1度が大統領選挙だ。
◆救世主が現れた。トランプ前大統領だ
上院の主な権限は、軍事、外交、政府高官の人事、連邦最高裁判事や中央銀行(FRB)の人事など。
下院の主な権限は予算など内政だが、上院の掣肘(せいちゅう)を受けがちだ。
バイデン大統領は2年前の大統領選挙で勝つだけでなく、上下両院でも与党の民主党が多数を占めた。
しかし、この2年間のバイデンは頼りなかった。ウクライナ事変では失言を繰り返し、国防総省と国務省が一致して頭を抱える始末。内政においても、行き過ぎたインフレに無策無能を繰り返し、アメリカ人は生活苦にあえいでいた。
不人気のバイデン民主党の大敗は確実、野党の共和党がどんな勝ち方をするか、と思われていた。ところが、絶体絶命の民主党に、救世主が現れた。
ドナルド・トランプ前大統領だ。
◆共和党の支持者の間でも鼻つまみ者なトランプ前大統領
トランプ政権は、最初の2年は立派だった。減税と規制緩和により民の活力を強め、蓄えた富を軍事力に注ぎ込む。台頭する中国に対し、毅然とし、インド太平洋の国々との連携を進めていった。トランプ本人が問題人物でも、側近はマトモだった。少なくとも、マトモな側近の意見が通った。
しかし、政権就任2年目の中間選挙で、下院の多数を失陥。内政でめぼしい成果を出せなくなり、求心力が低下。大統領再選をかけた政権最後の年には、運の悪いことにコロナ禍が直撃。大統領選挙では負けを認めず、醜態をさらす。あげく、トランプの演説に煽られた支持者が、連邦議会議事堂に乱入。あまつさえ、警備員に死者まで出た。日本で言えば、暴徒が皇居に乱入、皇宮警察に死人が出たような話だ。
このような辞め方をしたトランプは、一部に熱狂的な支持者を抱えるが、民主党はもちろん、共和党の支持者の間でも鼻つまみ者だ。
そのトランプが各州に自派の候補を擁立、そして自らも2年後の大統領選挙に出馬する構えを見せた。
この動きで、票は民主党に流れた。
◆バイデンによる内政はレームダックが続くだろう
本稿執筆の時点(11月10日)で、最終的な議席は確定していないが、民主党は思ったほど負けなかった。
上院は共和党49対民主党48の僅差(未確定議席3)。下院は共和党207に対し民主党187(未確定41)。
バイデンが下院を失うのは確実だが、上院は拮抗。神経を使わざるを得ない。
では、どうなるか。内政では、相変わらずレームダックが続くだろう。そもそも、80歳のご老人が今さら何の抱負があるのやら。地球環境問題にご執心のようだが、さらなる迷走をはじめるか。一方、外政に関しては、トランプ政権末期に「中国の台頭を許さない」との路線は、超党派で固めた。極端な方向には向かわないだろう。
こうした動きを見て、世界中の指導者(ただし知的にマトモな人物に限る)は、国策を決める。
◆中東とウクライナは間違いなくリンクしている
今月に入り、イランがサウジアラビアに戦争を仕掛けるのではないかとの動きが察知された。むしろ、察知させるかのように動いたとすら疑いたくなる。イランは中露陣営、というより反米国家。サウジはアメリカ陣営に属す。同じイスラム教徒でも宗派も民族も違い、仲が悪い。サウジはアラブ民族でスンニ派、イランはペルシャ民族でシーア派。石油が出る中東で、地域大国の両者が紛争を起こすと、アメリカはウクライナどころではない。
アメリカはウクライナに政府高官を送り、アメリカの「ウクライナ疲れ」を伝達、ロシアとの和議の用意をするよう伝えた。そしてウォロディミル・ゼレンスキー大統領も、「停戦交渉に応じる条件」を声明する。もちろん、「奪った土地を全部返せ」式の、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が呑むとは思えない条件が羅列されているが、アメリカに一定の配慮を示した格好だ。ウクライナもスポンサーのアメリカの意向抜きには戦えない。
中東とウクライナ。間違いなくリンクしている。イランを唆したのが誰なのか。はたまた状況を読んだイランが独自の判断で動いたのか。
絶対確実な情報など簡単に手に入るはずがないが、少なくともアメリカは中東での作用によって、ウクライナで動いた。まったく関係が無いどころか、関係している。国際政治とは地球上を舞台にしたゲーム(駆け引き)なのだから。
◆いつまでもアメリカに頼っていられない。自主防衛、自主独立だ
ただし、関係が無いものまで結び付けてはならない。一部には「明日、中国が台湾に侵攻する。そうなると世界大戦だ」と煽るマスコミもある。だが、そんな気配が中国にはない。なぜなら、国力が昇り調子の中国にとって、今の国際秩序は都合が良い。いわば「現状維持勢力」であり、リスクをとって「現状打破勢力」に回る必要が無い。もちろん、ハプニングによる戦争はいついかなる時もありえるので警戒は必要だが、より怖ろしいシナリオに備えるべきだ。
このまま行くと、中国は20年でアメリカを経済力で上回る。その時、台湾は戦わずして落ちる。
我が国も、いつまでもアメリカに頼っていられない。敗戦後の日本人は「いつかアメリカさんにお帰りいただく」と胸に秘めていた。自主防衛、自主独立だ。
今やアメリカの方から「自分の身は自分で守ってくれ」と言ってきている。
では、遠慮なく。
【倉山 満】
’73年、香川県生まれ。憲政史研究者。救国シンクタンク理事長兼所長。中央大学文学部史学科を卒業後、同大学院博士前期課程修了。在学中より国士舘大学日本政教研究所非常勤職員を務め、’15年まで日本国憲法を教える。ネット放送局「チャンネルくらら」などを主宰し、「倉山塾」では塾長として、大日本帝国憲法や日本近現代史、政治外交についてなど幅広く学びの場を提供している。主著にベストセラーになった『嘘だらけシリーズ』や、『13歳からの「くにまもり」』を代表とする保守五部作(すべて扶桑社刊)などがある。『沈鬱の平成政治史』が発売中
(出典 news.nicovideo.jp)
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