ネットも北朝鮮に・・・・

(田中 美蘭:韓国ライター

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 日本でもネットコミュニティの書き込みや口コミなどを通じて真偽不明の情報がひょんなことから拡散され、所謂、炎上状態となり、個人や企業などが風評被害を受けるというケースが問題化している。これに加えて、最近では「○○警察」と称されるような、他人の言動を逐一チェックし、自分の意に合わない場合はそれを正そうとする者も多く登場しており、「世知辛い世の中だ」という嘆きの声も聞こえて来る。

 ここ韓国においても、コミュニティサイトの影響力は大きく無視できない存在となっている。特に最近ではコミュニティサイトに投稿された内容が炎上し、名指しされたドラマや個人、企業などが大きな損害を被るという事例が相次いで起こっている。

 コミュニティサイトの影響力は時として政治をも突き動かす力を持つとされ、無視できない存在となってはいるが、弊害の大きさも指摘されている。

 あるドラマで、主人公が起こした問題行動の全容がコミュニティサイトに投稿され、さらにはニュースにまで取り上げられるという事態になり、主人公の上司が「コミュニティサイトにやられたら終わりだ」と頭を抱え込むシーンがある。そして、ドラマ内では会社が損害を受けたが、これは決してフィクションではなく、韓国でよくあることであるのだろう。

 それを示すかのように、先日、朝鮮日報でコミュニティサイトに端を発した炎上騒動、さらには過激な書き込みや炎上の心理について分析する記事が掲載された。ドラマや飲食店、企業などがコミュニティサイトの書き込みで炎上し、書き込まれた側と書いた側の双方が大きな代償を払うことになった事例の分析である。中でも被害が大きく知られているのはSBSドラマ「朝鮮駆魔師」が放送中止に追い込まれた事例であろう。

 筆者は先日、別記事(「参鶏湯は中国起源」に激怒した韓国人の反中感情)でもこのドラマの放送中止について触れ、背景に現在、韓国内で高まっている中国に対する反中感情があることを指摘した。ただ、そもそものきっかけはコミュニティサイトに書き込まれた指摘であった。朝鮮時代を舞台にしたこのドラマ内で使用されていた小道具やセットが「中国風」であり、それが「歴史歪曲だ」という声が瞬く間に広がったというものだ。

 SBSが謝罪と編集・修正をした上で放送すると対応策を発表するも視聴者側の反発は収まらず、結局は放送中止という最悪の結末となった。

朴槿恵大統領を罷免に追い込んだネットコミュニティの力

 また、同記事では東南部にある第3の都市・大邱(テグ)市と釜山近郊の都市・昌原(チャンウォン)市の飲食店の事例について触れている。やはりコミュニティサイトの書き込みがきっかけにより、店主の個人情報が暴露されたり、店が廃業や営業停止に追い込まれるといった被害を受けたことも伝えている。

 実は飲食店を巡るこのようなトラブルは頻発している。先日、釜山でも人気YouTuberによるライブ放送が食堂で行われていたところ、厨房で店員が料理と共に出されるおかずの食べ残しを次の客用にそのまま使おうとしている様子が映り込んでいたことから、「この時世に衛生観念もなく食べ物の使い回しをするとは!」と炎上し、この食堂は釜山市から行政指導を受け、2週間の営業停止処分となった。問題発覚後、ポータルサイトからは店舗情報が削除され、Googleマップの評価には軒並み低評価がつけられていた。

 動画や画像など限られた情報からターゲット個人情報までも調べ上げ、晒す執念はもはや恐ろしいの一言だ。日本でも事件の被害者とその家族、または被疑者の家族が晒され、二次被害を受けるという問題が起きており、ネット社会の弊害と言える。

 コミュニティサイトの存在は企業や教育の現場でも頭痛の種となっている。同記事では、大手製薬会社の採用面接を巡るトラブルが紹介されている。面接を受けた採用希望者が「性差別があった」というコメント動画投稿サイトに投稿。名指しされた製薬会社は雇用労働部(日本の厚生労働省に相当)から調査を受ける事態となり、面接を担当した社員は人事チームリーダーを解任されたという。

 今の時代、学校や職場での体罰、指導や世間話も相手の受け止め方によっては悪意のあるパワハラセクハラと受け止められる。しかも、動画や音声の記録に残すことは容易で、ネットコミュニティに気軽に投稿できてしまう。コミュニティサイトへの対応や対策は、教育機関や企業にとってますます課題になるだろう。

 コミュニティサイトに影響力は芸能界や日常生活だけでなく、政治にも影響を与えている側面がある。思い出されるのが、2016〜2017年にかけて起きた朴槿恵パク・クネ大統領を巡る知人女性の政治介入疑惑である。この知人女性の娘は、自身の不正入学が報じられて批判を受けていた最中に、SNSで「能力がないなら自分の親を恨め。金も実力のうちだ」という暴言を吐いた。このことが若者たちの怒りに火を点けたのは間違いない。

 そして、若者を中心とした国民の怒りに比例するかのように、次々と明るみに出る不正や疑惑が朴氏の退陣を求める「ろうそく集会」につながった。ネットでの呼びかけで2016年10月頃から始まったろうそく集会はソウルから地方に広がり、週を追うごとに規模が拡大していった。この国民の怒りの声と集会の勢いに突き動かされる形で、2017年3月、ついに朴氏は韓国憲政史上初めての罷免に追い込まれた。

「声が大きいモノが勝つ」社会の憂鬱

 振り返ると、2000年以降の韓国の政治はネットと共にあった。2000年以降の急速なネットの普及もあり、韓国は「IT大国」を自認するようになった。これに加え、文大統領の恩師でもあった故・盧武鉉(ノ・ムヒョン)元大統領が立候補した2002年大統領選挙では、「ノサモ(韓国語盧武鉉大統領を愛する会の略式名称)」と呼ばれる支持者がインターネットによる選挙運動を展開したことが注目を浴びた。

 当時、ノサモの中心となったのはインターネットが自身の生活に浸透していた20~30代の若者世代である。選挙期間中に保守系メディアである朝鮮日報や東亜日報の購読不買運動を呼びかけるなど、中高年からは眉をひそめられ、批判も受けた。こうしたところは、盧武鉉大統領の側近だった文氏の日本に対する不買運動にも似通っている。左派がネットなどを通じて世論に呼びかける手法は、盧武鉉政権のノサモから始まり、文政権の誕生でも受け継がれて来たと言える。

 しかし、朴氏に失望し、文大統領支持に流れた若者や中年層が、現在では文大統領に失望し、支持離れが進んでいる。今回のソウル・釜山の市長選挙でも左派与党はコミュニティサイトを活用し支持を訴えたものの、もはや以前のような勢いはなかった。来年の大統領選挙ではどのような選挙選の展開や変化が見られるのが注視したいところである。

 冒頭で紹介したような個人や企業をターゲットにした過剰な投稿を見ていると、問題提起された内容の信憑性を議論するのではなく、「自分が正しい」という確証を得るため、相手に非を認めさせ、社会的な処罰や抹殺を目的にしていると思われるようなケースが増えているように感じる。いわば、「歪んだ正義感」である。最近、スポーツ選手や芸能人による学生時代のいじめや暴力が相次いで告発されているが、底流に流れるものは同じだろう。

 政治についても、国民の声全体というよりも、ネットの声によってその時の世論の感情が大きく左右されているという印象が強い。

 前述の朝鮮日報の記事では専門家の見解として、「コミュニティサイトで問題を提起し、解決されることが繰り返されるうちに、小さい不満なども我慢せずに訴えればいいと実力行使につながっている」と指摘している。これは韓国に限ったことではない。声を大きく上げて行動した者が勝つということが当たり前になりつつあるのは世界的な傾向ではないだろうか。そして、その時々の雰囲気で民意が流されていく。これは危険な兆候であり、こうしたことが繰り返されていけば、世代間や性別など社会的な分断が加速するということを肝に銘じるべきだ。

[もっと知りたい!続けてお読みください →]  韓国でもしっかり起きている歴史認識と教科書の歪曲

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(出典 news.nicovideo.jp)

makoto

makoto

個人が勝手にやってる分には、大した害もないだろ。韓国の場合は、この手の団体を国が裏で支援するから問題になるんだろ?政治とマスコミがいかに腐敗してるかを物語ってるだけだと思うけど。

ccx

ccx

日本も他人事ではない。しかも外国政府機関の関与した書き込みが反米感情を煽るなど、世論操作にインターネットが利用されている。

ALTAIR [ltr]

ALTAIR [ltr]

欲求不満や不平,ストレス発散のはけ口にされる「悪の存在」を探してネットを徘徊してるのは正義マンで括っていいのだろうか...

gahahe

gahahe

ムンムン殺されちゃうの?

JACK C

JACK C

まぁ深く考えない真実を知ろうともしない浅いマヌケが多いってことね。そりゃ利用されて終わるだけでしょうよ。

ふみ

ふみ

韓国の大統領によくなるよな、だって大統領辞めたら死ぬか逮捕のほぼ二択なんだよ?