大きい歪み

■「アジア系を憎むのはやめて」が大きなトレンドに

3月下旬、テニスチャンピオン大坂なおみ選手のあるツイートが全米でニュースになった。

「もし人々がバブル・ティーやアニメ、モチ、スシ、マッチャと同じくらいアジア系の人を愛しているなら……その文化から生まれたものに恩恵を受けたり楽しんでいるのに、それを作り出した人々を攻撃したり卑下するなんておかしい」

アメリカで深刻な社会問題になっている、アジア系住民へのヘイトクライムに抗議するメッセージだ。

同じように錦織圭選手もATP(男子プロテニス協会)のトッププレーヤーと共に、公式な抗議コメントを出した。

さらにBTSサンドラ・オーといったアジアセレブジェイソン・ウー、フィリップ・リムなどのトップデザイナーアメリカトップ企業までがこぞって#stopasianhate(アジア系を憎むのはやめて)のハッシュタグと共に、抗議の声明を出している。

アジア系へのヘイトは今、アメリカを揺るがしかねない大きな問題になっているが、その背景にはアジア系に対する深刻な人種偏見や差別がある。

■ヘイトクライム件数は前年比の1.5倍に

アジア圏と太平洋地域をルーツにもつアメリカ人へのヘイトクライムを防ぐための団体「Stop AAPI Hate」によると、2020年パンデミックが始まってから今年2月までにまとめたヘイトクライムとみられる事象(人種に由来する憎しみが原因の嫌がらせから暴力犯罪まで)は3800件と報告されている。この数は1年前の1.5倍に上る。

ニューヨークだけでも、殴られたり刺されたりといったアジア系へのヘイトクライムと特定できる犯罪が今年になって33件起き、すでに昨年を上回っている。街の中心部で白昼、60代の女性が突然襲いかかってきた男性に殴る蹴るの暴行を受け大けがを負う事件も起きたばかりだ。アトランタでは3月、アジア系女性6人を含む8人が射殺される銃撃もあった。

人種にまつわるヘイトクライムは、たいてい犯人から差別的な言葉がぶつけられる。「中国に帰れ」「ここはお前の居場所ではない」「お前らウイルスだ」こうしたヘイトクライムが急増した最大の理由は、トランプ大統領コロナウイルスのことを「チャイナウイルス」と言い続けたことにあるとされている。

アメリカコロナ死者が55万5000人を超えた。多くの人が失業で苦しんでいて、その怒りの矛先が筆者のようなアジア系に向いている。多くのアメリカ人には中国系も日系も区別がつかないし、どちらでもいいと思っている人も少なくない。

こうしたアジアアメリカ人への差別偏見は今に始まったことではない。筆者は今回、日系2世の女性に話を聞くことができた。彼らの体験を知れば、なぜ今アメリカアジア系へのヘイトクライムがこれほど増えているのかが見えてくる。

■「ジャップ」呼ばわり、生卵を投げつけられ…

雲井利佳さんは、アジア系女性として嫌がらせを受けてきた1人だ。昨年のパンデミック初期はマスクをして地下鉄に乗っていると、周りの乗客が避けるように席を変えたという。「あまりに露骨な行為にとても驚いたし、悲しかった」と振り返る。

そして今では、アトランタの銃撃事件以降眠れない夜が続いている。幼少の頃から差別を我慢して生きてきたが、事件をきっかけに怒りと悲しみが溢(あふ)れ出した感じがする、周りにも同じようなアジア系が多いと話す。

ニューヨークの隣のニュージャージー州で、白人の中にアジア人が数人という環境で育った彼女の子供時代は、差別・偏見が日常茶飯事だった。常にジャップ、チンク、グークと差別用語を投げつけられ、歴史の時間に真珠湾攻撃、原爆を習えばそれをネタにいじめられたという。学校では先生に言っても相手にされず、耐えるしかなかった。

家には理由なく生卵が投げつけられ、黙って掃除する親の姿を見て悲しかった記憶がある。一時は「なぜアメリカなんかに来たんだ?」と親に怒りをぶつけたこともある。しかし大人になる頃には差別もなくなり、いじめられなくなるだろう、そう思って耐えた。

■黒人とは違った「見下し、笑う」差別

アジア系であるということだけで受ける差別の歴史は、19世紀に起きた中国系移民、続いて日系移民に対する排斥運動にさかのぼる。アメリカ人の職を奪うという理由で激しい抵抗に遭い、暴力の犠牲になったり殺されたりしたアジア系移民も少なくない。

さらに日本やベトナムとの戦争もあり、アジア系は常に憎むべき敵というレッテルを貼られ続けることになる。1964年の公民権法で人種差別が違法になってもそれは変わらなかった。

アジア系に対しては、普段はフレンドリーに接していながら、何かのきっかけで職業差別や女性蔑視など、自分より劣っている者を見下し、笑い、または無視するといったカジュアルな差別が起こることが多い。それがじわじわとアメリカ社会の底流に流れ続けている。

■生まれ育った国でよそ者扱いされるつらさ

大人になった利佳さんは、子供の頃のような嫌がらせを受けることはなくなったが、新たな偏見に晒(さら)されることになる。最もつらいのは初対面の相手に“Where are you from”(出身はどこですか?)と聞かれることだ。「ニュージャージー出身です」と答えると、相手は腑に落ちない顔をする。なぜなら彼らは、彼女の親または先祖がアジアから来たという言葉を聞きたいからだ。

これも私を含めアジア系だったら誰もが常に経験することで、言葉の裏には「あなたをまだアメリカ人として認めていないよ。あなたは私たちとは違う、あちら側の人間なんだよ」という感情、無意識の差別が見え隠れする。

存在を認めない、無視される差別は人格否定にもつながる。多くのアジア系が生まれた国でよそ者として扱われるトラウマを共有している。ニューヨークを拠点とするファッションデザイナージェイソン・ウーは、ミシェルオバマ夫人のドレスデザインしたほどの有名デザイナーだが、その彼が最近のインタビューで「この年になってようやくアジア系としての自分に自信が持てるようになった」と語っているほどだ。

かしこうした差別やトラウマもこれまで大きな問題にならなかったのは、波風立てたくないアジア系が黙って耐え続けたからだ。

■優秀だと憎まれる「モデル・マイノリティー」

アジア系はいまだに、アメリカの全人口の6%に満たないマイノリティーだ。しかし移民として重労働にも愚痴を言わずに取り組む従順な彼らは、白人社会の下層にいるアフリカアメリカンや、ヒスパニックと上層にいる白人との間でクッションのように置かれるようになる。

勤勉な彼らの多くは、24時間の食料品店、クリーニング店といった職業に就いたが、アフリカアメリカンが多く居住する貧困エリアに店を開くと、お金を吸い上げるだけで地元に還元せず自分たちだけ豊かになっていると、時には嫉妬や怒りの対象にもなった。

母国の経済成長に伴い学歴も上がり豊かになった者も多く、モデル(お手本)・マイノリティーと呼ばれるようになる。しかしそれが「アジア系はアフリカアメリカンやヒスパニックより優れている」という偏見を作り出し、マイノリティー間の分断と軋轢を生んだ。そのため、モデル・マイノリティーは人種間の連帯を恐れる白人社会が意図的に作り出した概念と強く批判されている。

いくらモデル・マイノリティーと呼ばれるようになっても、白人社会では「よそ者」として差別され続ける。それでも、問題を起こすことを嫌う彼らは黙り続けてきた。

それが一変したのがアトランタ銃撃だった。

■浮き彫りなった「アジア系」「女性」の二重差別

アトランタ銃撃が起こった時、利佳さんは心が壊れた気持ちがしたという。その最大の理由は、アトランタの白人保安官が事件直後の会見で、21歳の容疑者をかばうような言い方をしたことだ。

事件を起こした理由に触れた時、「彼にとっては散々な1日だったようだ」と驚くほどカジュアルな言い方をしたのだ。犠牲者がもし白人ばかりだったら決してこんな言い方はしなかっただろう。マッサージ店で働くアジア系女性6人を含む8人の命はそれほど軽いのか?

さらに彼は「容疑者はセックス依存症で、その原因と考えた女性を除去しようとした」

つまり女性に対するものだからアジア系へのヘイトクライムではないという。しかしここで明らかになったのは、彼がアジア系女性をセックスの対象として見ていたということで、これは残念ながらアメリカ社会の中ではあまりにも共通の認識だ。

アジア系の女性はエキゾチック、しかもおとなしく従順というのは、アメリカが戦ってきたアジア圏での戦争から、ハリウッド映画などで増幅された最もネガティブステレオタイプだからだ。

アトランタ銃撃は、アジア系女性というステレオタイプに基づく憎悪が理由で、明らかヘイトクライムとして捜査すべきという声が激しく上がっているが、アトランタ市警はいまだにそれと認めていない。

■なぜ、今年に入って急増しているのか

アジア系へのヘイトクライムが急増したのは、これまで意識下でくすぶっていた差別感情が、トランプ氏によって刺激され表面化したのが原因とされる。さらに差別自体をタブーではないと考え、BLMに反感を持つ人が増えたのも、議会襲撃をはじめ白人至上主義者の活動が活発になったことから容易に推測できる。

だが、今年に入って急にヘイトクライムが再び増えているのはなぜだろう? トランプ氏が原因なら、彼が去ったのに減るはずはないと思うかもしれない。

一つ考えられるのは、1年を超えるパンデミックで経済的にも精神的にも追い詰められた人が多く、その鬱憤(うっぷん)が弱くおとなしイメージアジア系にぶつけられているということだ。

さらには、これまでも同様の犯罪が頻繁に起こっていたのに、きちんとカウントされず報道もされていなかったのではないかという疑念もある。ヘイトクライム自体を犯罪として立証するのは難しい。犯行時にそれと分かる言葉を発しているなど、加害者がはっきりとヘイトを持っていたことが証明されなければならない。

またアジア系の場合、波風を立てるのを嫌う被害者が黙って泣き寝入りしたり、言葉が通じず理解されなかったりする場合も多く、警察自体の意識が低いことも原因だ。州によっては報告義務もないため、全米でいったいどれだけのヘイトクライムがあるのかを当局の数字として把握するのはまず不可能と言っていい。

■かつてない規模で声が強まっている

「黙っていたらだめ」「声を上げなければ」というメッセージハッシュタグ#StopAsianHateと共に全米を駆け巡り、沈黙していたアジア系がついに声を上げ始めた。

筆者も多くの抗議行動を取材しているが、アジア系による抗議でここまでの規模は史上初だろう。しかも若者を中心とした年齢層の広さに驚かされる。こうした抗議行動は週末を中心に全米に広がり、徐々にアジア系以外の白人、黒人の若者「アライ」が増えてきている様子も見られる。

アフリカアメリカンやヒスパニックがそれまで黙って耐えてきた警察暴力に対し立ち上がったBLMの影響も大きく、白人至上主義という共通の敵と戦うには、連帯こそが不可欠だという考え方も高まっている。

雲井利佳さんは「『アライ』が味方でいてくれることがうれしいが、こうした抗議行動に参加した帰りに暴力を振るわれたアジア系女性もいて怖くて参加できない」と話す。その代わり、インスタグラムクラブハウスなどのソーシャルメディアで積極的に発言し、活動団体への寄付を呼びかけている。

■「何をされても黙っている」と思われているアジア人

バイデン政権は、アジア系へのヘイトクライムに強く抗議する声明を出し、各自治体ヘイトクライム法の整備や警察対応の向上などの対策も模索され始めてはいる。しかし、現在100人の上院議員のうちアジア系がわずか2人であることからも分かるように、政治の世界でのアジア系の存在感があまりに低いことも指摘されている。

アジア系へのヘイトクライムに端を発したこうした動きは始まったばかりだが、少なくとも「何をされても黙っている」というステレオタイプからアジアアメリカ人は脱却を始めている。もう犠牲者にはならない、そう決心したアジア系は激動する人種社会の中で、重要なプレーヤーになろうとしている。

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シェリー めぐみ(しぇりー・めぐみ
ジャーナリスト、ミレニアル・Z世代評論家
早稲田大学政治経済学部卒業後、1991年からニューヨーク在住。ラジオテレビディレクターライターとして米国の社会・文化を日本に伝える一方、イベントなどを通して日本のポップカルチャーを米国に伝える活動を行う。長い米国生活で培った人脈や米国社会に関する豊富な知識と深い知見を生かし、ミレニアル世代、移民、人種、音楽などをテーマに、政治や社会情勢を読み解きトレンドの背景とその先を見せる、一歩踏み込んだ情報をラジオネット・紙媒体などを通じて発信している。オフィシャルブログ

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ニューヨーク・タイムズスクエアで行われたアジア系差別に対する抗議デモ=2021年4月4日 - 筆者撮影


(出典 news.nicovideo.jp)

図々しい猫

図々しい猫

アメリカでのゴタゴタはあっちに行った中韓人が優秀だからではなく現地で溶け込む努力よりも自分達のスタイルを通そうと現地人と摩擦を起こしてきた過去があるからだと思うのですが

hinode

hinode

プレオン「日本も中韓もアメリカから見れば同じアジア人なんだ、日本は中韓と同じアジア人として連帯してアメリカの差別主義に立ち向かわなければならない!」

ゲスト

ゲスト

アジア系へのヘイトが増えたのはコロナばら撒いた中国人と彼方此方でイアンフガー旭日旗ガーって騒いでる韓国人の所為だろ?他のアジア系がそれの巻き添えになってるだけ。

hinode

hinode

そもそもプレオンは「日本へのヘイトはヘイトじゃない」というスタンスだったんじゃないのか?

db

db

「アジア人へのヘイトクライムの件数」は、数百件でまだ1000件へ行ってないので、実態はそこまででもないだろ…。単に治安が悪くなってきてるだけだと思うよ。実際、「銃による犯罪件数」が跳ね上がってるようだし。

db

db

まあ、中国としては「アジア人へのヘイトクライム」と煽って、最近の中国の国際社会での評判の低下をごまかせるので、そう利用してるようにも見えるがね。

db

db

まあ、被害にあった人は訴えた方がいいが。それは権利だし、差別を受けているのも事実だからな。

ALTAIR [ltr]

ALTAIR [ltr]

優秀ではなく、単に声がでかく目立つような問題行動をしていたからでは?

わだお

わだお

日本国内の日本に対するヘイトをスルーしながらこういう主張するのはどうかと思うよ。

マツ

マツ

日本人や中国人の中には優秀な人材が多数いるが、チョウセンヒトモドキは劣等生物であり優秀な個体など存在しないだろう。  

halv

halv

コロナによる中国憎悪やアトランタの韓国人売春婦殺傷を日本に絡めようとすんな。それはロシア人と英国人を一緒くたにするような愚行だ