厳しい

 新型コロナウイルス感染症の拡大防止を目的にした2回目の緊急事態宣言は、1都3県では1月8日から3月21日までの長期にわたった。営業時間の短縮を要請された飲食業界がさらなる大きなダメージを受けたことは、数字にも表れ始めている。

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 日本フードサービス協会が毎月実施している「外食産業市場動向調査」によると、2月の「パブ・居酒屋」の売り上げは対前年比29.3%。前年の2月も新型コロナの影響で売り上げが下がっていたため、前年比の数字以上に厳しい状態で、「飲酒業態にとって酒類提供の時間短縮は致命的」だったと指摘している。

 緊急事態宣言中は、東京都全域の飲食店に営業時間の短縮が要請された。午後8時までの短縮営業に応じた飲食店には、感染拡大防止協力金として、1店舗あたり1日6万円が支払われることになっている。宣言解除後も午後9時までの営業時間短縮要請が続いていて、応じた場合には1日あたり4万円の協力金が支払われる。

 だが――。飲食店からは「緊急事態宣言中の協力金がまだ支払われていない」と悲鳴が上がっている。さらに、12月から1月にかけての営業時間短縮要請に対する協力金が支払われていない店舗もあるという。その結果、飲食店の資金繰りは厳しさを増していて、東京都内の繁華街では午後9時以降も営業する店が散見される状況だ。緊急事態宣言解除後の飲食店の現状と、協力金の支給の現状を取材した。

●東京・新橋では多くの店が営業を再開したが……

 数多くの飲食店が集まる東京都内有数の繁華街の一つ、新橋。酒を提供する飲食店が多いこともあり、1月8日から3月21日までの緊急事態宣言中は、営業しても売り上げが見込めないとして多くの店舗が休業していた。宣言が解除されてからは営業を再開しているものの、周辺にある大企業ではテレワークが続いているほか、東京都内の感染者数も増加傾向にあることから、夜の新橋に以前のような活気は戻っていない。

 営業を再開したほとんどの店が、東京都の要請に従って午後9時で営業を終えている。3月30日の夜9時過ぎに新橋を訪れてみると、人の流れは新橋駅へと向かっていた。ただ、飲食店が密集している地域を歩いてみると、午後9時以降も多くの客で賑わっている店がある。中には、店頭や看板の灯は消しているのに、店内に客がいる店もあった。午後9時以降も営業している店が確実にあるのだ。新橋にあるバーの店主は、経営の現状をこう明かす。

 「緊急事態宣言期間中に休業したために、運転資金はほとんど底をついている状態です。しかも、東京都に感染拡大防止協力金を申請していますが、今年1月の緊急事態宣言中の協力金はまだ1円も支払われていません。いつ支払われるのかも分かりません」

 東京都の感染拡大防止協力金は、期間を分けて申請受付がされている。この店主の場合、年末年始を含む12月18日から1月7日の分は、3月上旬に振り込まれたという。緊急事態宣言中の1月8日から2月7日までの期間については、2月22日から3月25日に申請受付が行われた。店主は書類に不備があって支払いが遅れることを防ぐために、行政書士に頼んで早い時期に申請した。しかし、3月30日になっても、何の音沙汰もないという。

 「協力金の申請は、提出しなければならない書類が多く、持続化給付金と比べると準備が大変です。私も最初に申請した時は何度も不備を指摘されました。それで行政書士にお願いをしたのですが、緊急事態宣言中の協力金がいまだに支払われないのは、一体どういうことでしょうか。

 私の店は規模が小さいこともあって、これまでの蓄えを崩してギリギリのところで耐えているので、営業時間の短縮にも応じています。しかし、午後9時以降も営業している店が多いのは、協力金が支払われないので、現金を確保しなければ潰れてしまうからでしょう。協力金の支給が遅いことには憤りを感じます」

1月8日から2月7日分の協力金支給率は18.9%

 緊急事態宣言中の協力金の支払いがどうなっているのか、東京都に聞いた。産業労働局企画計理課の担当者は、支給が遅れていることを認めた。その上で、支給の現状を次のように説明する。

 「緊急事態宣言中の1月8日から2月7日までの期間は、5万8000件の申請がありました。申請に対して支給できているのは3月22日の時点で1万1000件です。申請から不備がなければ、2週間くらいでの支給を考えていましたが、協力金の受付が立て続けに行われていることもあって、順番待ちで時間がかかっている状態です」

 担当者が明かした数字から計算すると、支給率はわずか18.9%。感染拡大防止のために時短営業ではなく休業を選んだ店舗が多い中で、この支給率では多くの飲食店が困っているはずだ。2月8日以降の分は現在申請受付中で、まだ支給はされていない。

 また、12月18日から1月7日までの期間に要請した営業時間短縮に対する協力金の支払いも、まだ終わっていないことも分かった。5万9000件の申請に対し、支給は4万4000件。支給率は74.5%にとどまっている。1万5000件はいまだに支給されていないのだ。

 この1万5000件について東京都は「申請書類に不備があったため」と弁明する。できるだけ不備を無くすために、注意すべき点を協力金についてのWebサイトにアップするなど、対策を進めているという。

 しかし、全体として、協力金の支給に時間がかかっていることは事実だ。協力金が3月中に支払われないことで、経営がもたない店も出てくる可能性がある。営業時間短縮の要請に従ったことで、倒産や廃業に追い込まれかねない事態になっているのだ。

 東京都によると、協力金の審査は都の職員と、事務局を委託している博報堂によって行われている。協力金の支給が始まった昨年4月以降、これまでに支払われた協力金は2200億円以上。博報堂への委託料は最大で200億円の予算が計上されている。営業短縮を要請しているのは東京都なのに、「受付が立て続けに行われているため」に支給が遅れるのは、業務の設計に問題がないと言い切れるのか。

●「経営努力だけではもたない」

 東京都新型コロナ対策の特別措置法の改正を受けて、緊急事態宣言中の営業時間短縮要請に従わなかった32店舗に対して、営業時間短縮命令を出した。3月29日には命令に従わなかった4店舗に対して、30万円以下の過料を科すための手続きを始めている。

 一方で、系列の26店舗に対して営業時間短縮命令を出したグローバルダイニングからは、命令は「違憲・違法」だとして3月22日に提訴された。グローバルダイニングは、東京都の要請に異を唱えたことに対する「狙い撃ち」の命令だとして東京都の命令の違法性を訴えているほか、「要請に応じていたら経営を維持できなかった」とも話している。

 32店舗に命令を出したものの、要請に従わなかった店舗は2000店舗以上ある。命令や過料に公平性があるといえるのだろうか。さらに、売り上げが減少することを覚悟して要請に従った店舗が、協力金の支払い遅延で苦境に陥るのは、行政として適切な対応といえるのだろうか。

 現在の営業時間短縮要請は、東京都では当面4月21日まで続くと見られている。午後9時までに営業時間を短縮することで、1日あたり4万円の協力金が支払われるものの、小規模で家賃が安く、1日の売り上げが数万円といった飲食店以外は、収支がプラスになることはないだろう。日本フードサービス協会では現在の状況を「企業努力や経営努力だけではもたなくなってきている」と分析している。

 東京都は「審査の人員を増強している」というものの、支給の遅れが解消する目処は立っていない。1月8日から2月7日までの協力金の支給が完了する時期については「何とも申し上げられない」と答えるのみ。要請に応えた飲食店を窮地に追い込んでいる状況を認識して、1日でも早く支給できるような対応が求められる。

ジャーナリスト田中圭太郎)

飲食店が集まる東京都内有数の繁華街、新橋の夜


(出典 news.nicovideo.jp)