やり方を探せば、あるのかもしれません。

 東北地方を襲った未曾有の大災害から10年を迎えた。インフラを中心に被災地の復興は進んだものの、住民の高齢化や人口減少は続いており、街やコミュニティの再生という面では震災前にほど遠い。とりわけ地元住民に甚大な被害を与えた福島第一原発の廃炉作業は、いまだ出口が見えない状況だ。

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 震災復興とは、すなわち福島の復興だと指摘するジャーナリスト田原総一朗氏と作家の猪瀬直樹氏が、原発とエネルギー行政について激論を交わした動画「元気を出せニッポン!チャンネル」の一部を公開する。

田原総一朗氏(以下、田原):猪瀬さん、よろしくお願いいたします。

猪瀬直樹氏(以下、猪瀬):どうぞよろしくお願いいたします。

田原:前回の対談では、震災時に気仙沼で起きた『救出』の話を伺いました。ただ、震災復興を考えた時の最大の問題は福島だよね。結局、福島は東京電力の原発基地でしたが、まさにこれが東日本大震災で事故を起こした。福島の復興はどうなりますか。

猪瀬:東日本大震災を考えた時、もちろん両者は重なっているけれども、津波による被害と原発事故の2つですよね。津波による被害の方はかさ上げして高台にしたり、堤防をつくり直したりして解決していく道筋はつけました。いざという時のためのSNSの活用や携帯電話の基地局の増強なども進んでいます。

 ただ、福島の原発事故の方は、解決に向けた道筋を政府がきちんと示していません。

田原:そもそも福島に原発を持っていったのは、福島出身で東京電力トップを務めた木川田(一隆)さんなんだよね。「福島にはどの企業も来てくれない」「福島を元気にするには原発しかない」ということで、自分のふるさとに原発を持っていった。

猪瀬:原発が夢のエネルギーと言っていた時代ですよね。

東京で電気が使えるのは誰のおかげか?

田原:さらに言えば、原発を導入しようと声高に叫んだのは中曽根(康弘・ 元首相)さんです。

 僕は中曽根さんに何度も取材したけど、日本の電力は水力、石炭、石油だが、石炭や石油はいずれなくなってしまう、だからこそ半永久的に使える原発しかないんだと力説していた。現に、1953年に当時のアイゼンハワー米大統領が「原子力の平和利用」を訴えた後、中曽根さんは日本初の原子炉製造予算案を国会出している。

 木川田さんはもともと原発には大反対だった。ただ、「原子力はダメだ。絶対にいかん。原爆の悲惨な洗礼を受けている日本人が、あんな悪魔のような代物を受け入れてはならない」と公言していたのに、最後は悪魔と手を結ぶような、ファウスト的な契約を結ぶんだよね。その背景には、独立を保ちたい東京電力と再国営化を望む通産省(現経済産業省)のせめぎ合いがあった。
 
猪瀬:そのあたりの話は、田原さんが『ドキュメント東京電力 福島原発誕生の内幕』で詳しく書かれていますね。

 昔、僕が東京都の副知事だった時に、福島県知事だった佐藤雄平さんが東京に来たんです。衆院議員だった渡部恒三さんの秘書を長らく務めたたたき上げの方です。その時の会食で、酔っ払った佐藤さんが絡んできたことがあってね。「あんたね、東京の人間は福島から電気をもらっているのに、原発反対のデモ隊を送ってくるとはどういうことだ」と。

田原:とんでもないと。

猪瀬:「僕が送ったわけじゃないんだから」となだめても、「われわれから電気をもらっているのになんだ。ふざけるな」と怒るわけです。ただ、佐藤さんが怒る気持ちも分かるんです。

 福島の人々は福島の電力が東京を支えているという意識があるけれども、東京の人間は福島のおかげで電力が使えているなんて全く思っていませんから。東京湾に原発を1基つくれば自覚するんじゃないかという話もありましたよね。

 それは今も同じです。東京の人間は、福島の原発事故は福島の原発事故に過ぎないと思っている。

田原:今の情勢では原発の復活はないね。小泉(純一郎・元首相)さんは現役の時には原発推進派でしたが、東日本大震災の後、フィンランドの「オンカロ」という放射性廃棄物の最終処分場を見て原発反対に変わった。核のゴミが無害化するまで10万年、地下深くに貯蔵する。これを見て、彼は反対になる。

原発という理想のエネルギーはもう終わった

猪瀬:原発推進派が掲げた理想の根源は核燃料サイクルだよね。原子炉で使用した使用済み燃料からプルトニウムを取り出し、ウランと混ぜて原子炉の燃料としてまた使うという核のリサイクル

田原:高速増殖炉の「もんじゅ」ね。

猪瀬:よく原発は「トイレなきマンション」と言われますが、そうじゃないんだ、便所はいらないんだという話でした。燃えた後のゴミがまた燃料になるのであれば、それは夢のエネルギーです。

 ただ、もんじゅ1995年に事故を起こした。その後、ドイツなど先進国は核燃料サイクル計画をやめて、フランスだけが新たな高速増殖炉の計画を進めていたけど、フランスも研究を中断してしまった。もう日本だけになってしまった。

田原:安倍(晋三・前首相)さんはフランスと組んで核燃料サイクルを進めようとしたけど、フランスはやめちゃった。

猪瀬:やめちゃった。だから、核燃料サイクルはもうダメだということなんですね。原発自体のコストが上がるだけでなく、もんじゅの理想もつぶれてしまった。原発というものが、もう終わったんですね。

田原:そうなると、福島の復興はどうすればいいの?

猪瀬:そのあたりは動画を見ていただければと思いますが、結論を出さずに先延ばししているだけだよね。

田原:もともと日本は原発を増やしてCO2を削減しようとしていた。民主党菅直人政権の時、2050年エネルギーに占める原発の比率を50%にすると言った翌年に東日本大震災

猪瀬:その後、LNGと石炭火力にシフトしたけれども、それが国際社会の大批判を浴びた。2019年に小泉進次郞・環境大臣が国連のCOP25(気候変動枠組み条約締結国会議)でやった演説に対して、国際的な環境NGOが「化石賞」を授与するという恥ずかしいことも起きたね。

田原:石炭、石油をどれだけ減らすかということが言えなくて化石賞

猪瀬:石炭火力へのシフトはあくまでも経済産業省の方針で、化石賞をもらっちゃったのは彼のせいではないんだけどね。

田原:かわいそうなのは、環境大臣って全く権限がない。権限はすべて経産省だ。

猪瀬:進次郞君が化石賞をもらった時に、日本人はなぜ進次郞があそこまでバッシングを浴びるのかと言うことをもっと真剣に考えなければなりませんでした。つまり進次郞ではなく、日本人が批判されているという自覚が乏しかった。

世界のお天気が見えなくなっている日本

猪瀬:その後、小泉大臣が頑張って、梶山(弘志)経産大臣と話し合い、石炭火力の輸出をやめていくための4条件を表明するところまでいきました。

(1)エネルギー安全保障及び経済性の観点から石炭をエネルギー源として選択せざるを得ないような国に限り、(2)我が国の高効率石炭火力発電への要請があった場合、(3)相手国のエネルギー政策や気候変動対策と整合的な形で、(4)原則、世界最新鋭であるUSC以上の発電設備について導入を支援する──というものです。

 このあたりも動画でご確認いただければと思いますが。ベトナムに納入した石炭火力が実は日本製ではなかったんですよね。

田原:問題は、日本は経産省よりも電力会社の力が強いことなんだ。関西電力の歴代トップスキャンダルを起こしても経産省は何も言えない。もっと悪いのは、送電線網を事実上、電力会社が抑えていることだ。

猪瀬:そこなんです。送電線に空きがないとずっと言っていましたが、それが嘘だと言うことが分かって来たんです。高速道路で言えば、3車線あるのに原発用に2車線使っていて、残りの1車線だけを見て空きがないと言っている。原発が動いていないのに、原発用の2車線を通行止めにしている、ということがいろいろと分かってきた。

 国際社会は気候変動、すなわちカーボンニュートラルの方向に向かっていて、SDGsを含め投資活動も変わってきている。その中で、日本は世界の“お天気”が見えなくなっている。これからは電力自由化の問題を含め、対応していかなければなりません。

田原:その通りです。ありがとうございました

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汚染水を格納したタンクが並ぶ福島第一原発(写真:ロイター/アフロ)


(出典 news.nicovideo.jp)