(出典 amd-pctr.c.yimg.jp)


かなりきつい感じがする。

「官僚のことを身近に感じることは難しい」そう語るのは“元官僚系YouTuber”としてYouTubeTwitter上で情報発信を続けるおもちさん(@ex_kanryo_mochi)。おもちさん自身も、もともとは中央省庁に務める国家公務員、いわゆる官僚でした。

夜勤
イメージです(以下同じ)
 昨今では月に数百時間に及ぶ残業など、その過酷な労働環境を指摘する声も少なからず上がっています。その背景にはどのような問題があるのか。そしてなぜおもちさんが元官僚として情報発信するようになったのか。お話を聞いてきました。

月3、4日しか電車で帰れない激務

――もともと中央省庁に勤めていた。退職のきっかけは何だったのでしょう?

おもち氏(以下、おもち):まず、ポジティブな理由は、民間企業でスキルを高め、社会貢献をする道もあるのではないかと思ったからです。もちろん、組織に腰を据えて30年以上、定年まで勤め上げる方々を否定する訳でなく、むしろ尊敬しています。

 また、最近では防衛省国家公務員総合職の中途採用を始めたように、官僚も雇用の流動化が進んでいます。民間企業で力を付け、その後、再び国で働くことが一層の社会貢献に繋がると思ったなら、その時に本気で努力をすれば、将来的に中央省庁に戻ることもできるのではないかと考えたことも理由のひとつです。

家族の寝返りをうつ姿しか見られない

おもちさん
元官僚系YouTuberおもちさん
――官僚は激務とも聞きます。そういった点も影響したのでしょうか?

おもちそうですね。それは退職理由のネガティブな側面です。私には家族がいるのですが、省庁に務めていた当時は忙しく、退職前の半年間は、平日は家族が動いているところといえば、寝返りをうつ姿しか見られなかったんです。

 一番忙しい時では月に3、4日しか電車で帰ることができない。退職直前が正にその状況で、ほとんどは明け方、タクシーで家に帰る生活でした。こんな生活を続けていて、ふと、私は自分の身の回りの人間を幸せにできていない、そのような状況で、国民の方々を幸せにすることが難しいのではないかと思ってしまいました。

 思考はネガティブになっていきました。困難を抱える方々を支援したいと思い入省したのに、かえって身近な人たちを困らせていると。とはいえ、業務は膨大で、次から次に仕事がやってきます。業務改善の取組も、人一倍取り組んできましたが、これ以上、自ら改善することは難しいと考え、退職を決意しました。

退職で明るい時間に帰れる生活に

おもちさん
YouTube「元官僚 おもちチャンネル」より
――民間企業に移られて生活面ではどのような変化がありましたか?

おもち今務めているところはコロナの影響もあって、月1、2回の出社以外は自宅でのリモート勤務。土日祝日は完全に休みで、勤務時間はだいたい10時から18時頃までです。

 当たり前かもしれませんが18時台に仕事が終わることは大きな変化でした。仕事が終わって、職場から出て「空がめちゃくちゃ明るい!」と思いましたよ(笑)

――官僚の時は違う意味で空が明るい時はあったそうですが……。

おもち確かに(笑)。仕事が明け方に終わることも多かったですからね。夕方の明るさと明け方の明るさは違うなと、しみじみと思いました……。ただ、定時で終わるという生活が始まったのですが、率直なところ、最初は家に帰った後の時間を持て余してしまったんです。午後6時すぎに家に帰ってくる。

 そこから眠る12時までの6時間、いったい何をすればいいのか、当初は全くわからなかったです。今は、YouTubeTwitterなどの活動もそうですが、有効に時間を使えるようになってきたと思います。

自分でスケジューリングするのが難しい

――社内の仕事のやり方など、違いを感じることはありますか?

おもちこまごまとしたところでは違いを感じる点はたくさんあります。一番違うと思ったのは、自分で仕事のスケジューリングができることですね。

 省庁では、その日に発生し、その日中、または数日内が、期日の突発的な仕事が圧倒的に多く、若いうちは自分でスケジューリングするのが難しいため、自発的な仕事になかなか向き合えないような状況がありました。

 それに比べて余裕ができ、考える時間ができたように思います。これは大きな変化でした。

なぜ若手官僚がブラック労働に

――YouTubeなどで若手官僚の過酷な労働環境についても発信されていますが、その背景にはどういった問題があるとお考えでしょうか?

おもちいろいろな要因がありますが、自分たちがどれくらい働いているか、正式に把握・公表されていない、現状把握が正確になされていないことが一番大きな問題だと思います。2018年に中央省庁の残業時間は月30時間ぐらいだと公表されていますが、これはあくまでも残業代が支給された時間にすぎません。実際には公表されていない労働時間がある。

 一方で、公表されている時間は「残業時間月30時間」ですから、外部の人間が見れば「いまのままでも人員が足りている、少し効率化すれば問題がないだろう」と思われてしまう。だからそこで議論が終わってしまうのです。

 例えば、河野太郎大臣が「霞が関ブラックだ」とおっしゃっていますが「それは河野大臣の所感ではないか?」と反論された場合、それを否定するための公式なデータがない状況です。

議論が的外れになってしまうワケ

――問題を解決しようにも必要な情報がない、というわけですね。

おもち具体的な数字がわからないと改善のための議論が的外れになってしまいます。仮に「平均残業時間が一人頭平均で80時間くらいある」というデータがあるとしましょう。

 なぜ残業時間が月80時間になってしまうのか、その要因を特定する。その要因をひとつひとつ改善していく必要があります。本来、必要な残業であれば残業代を支払うべきと思いますが、仮に財源との兼ね合いで残業代が払えないのであれば、業務量を減らす、効率化する、極端な例を挙げれば、業務を効率化・均等化した上で固定残業代制にして、一人当たりの生産性を上げることを試行するなどの対策が考えられます。

 もちろん、これらの対策が正しいかどうかは長時間労働の要因を特定した上で更なる議論が必要ですが、具体的なデータがあれば、どのような対策を取るか、複数の選択肢を踏まえて議論ができる可能性が見えてくると思うのです。長時間労働の主因が国会対応なのであれば、国会関係業務を国会議員側と協力して改善していく、という方向になっていくでしょう。

 ですが、今は正確な労働時間を出しておらず、改善の必要性が国全体で共有できていない。霞が関では改善の必要性が共有されていても、霞が関を超えた議論が進まないのではないかと個人的には思っています。結果として、人員が足りず、無茶な労働をしなくてはいけない。いわゆるブラック省庁みたいなものが出てくることにもつながっていると思います。

<取材・文/柳洋>

おもち@元官僚系Youtuber
官僚の闇から日常までを疑似体験できる場と、官僚×民間経験を基に発信。新卒で中央省庁→退官→民間企業へ。得意分野は観光と労働系
Twitter@ex_kanryo_mochi
YouTube「元官僚 おもちチャンネル

【柳洋】

編集者ライター1993年生まれ。フリーランスを経て、出版社に勤務。Web記事や書評を中心に編集・執筆をしています

東京霞が関 国土交通省(イメージです)


(出典 news.nicovideo.jp)