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世界を見たら、水道民営化は失敗した例が多いです。

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◆「社会的共通資本」を外資に売り渡す水道民営化の愚
 公共サービスとは、国民の生命、安全と直結しており、効率だけで行われるべきものではない。経済学者の宇沢弘文が喝破したように、それらは「社会的共通資本」であり、市場原理に委ねるべきものではない。

 特に「水道」は生命と直結しており、「水は人権」という考え方が広く言われるようになっている。そのため、世界でも水道民営化の失敗から「再公営化」に踏み切る国が増えているのが現実だ。

 しかし、安倍政権はフランスなどの水メジャーに、日本人の水を売り渡しかねない水道民営化を強行採決した。

 危機に瀕する「日本人の水」について、3月21日発売の日本の自立と再生を目指す闘う言論誌『月刊日本 4月号』では、「トランスナショナル研究所」(TNI)研究員であり、経済的公正プログラムオルタナティブ公共政策プロジェクトのコーディネーターでもある岸本聡子氏の論考を紹介している。今回はこの記事を転載、紹介したい。

◆民営化によって水道料金が高騰
―― 岸本さんは新著『水道、再び公営化! 欧州・水の闘いから日本が学ぶこと』(集英社新書)で、欧州での水道民営化の弊害を明らかにし、再公営化を求める市民の運動にスポットをあてています。欧州で水道と民主主義の問題に取り組んできた視点から、欧州の水道民営化のどこに問題があったのか教えてください。

岸本聡子(以下、岸本):欧州の市民の怒りの発端は、水道料金の高騰でした。民営化すれば経営が効率化し、水道料金が下がるというふれこみで民営化をしたら、実際には料金が上がってしまった。そんなケースがじつに多いのです。

 極端な例ですが、ポルトガルの地方都市では、民間企業が水道料金を以前の4倍に値上げしました。そのうえ、人口減少により予測利益に到達しなかったといって、市に対して1億ユーロ(約120億円)の補償請求書まで送りつけてきたのです。
 料金の値上げは、そうした人口減少に悩む町だけの話ではありません。パリ、ロンドンベルリンなど大都市でも、大幅な値上げがあり、市民の怒りが爆発し、「再び公営化を!」という運動に火がつきました。

 考えてみれば簡単なことです。民間企業の場合、株主配当や役員報酬などが発生します。設備投資をするときも、利率の低い公的融資を受けるのではなく、金融市場から資金を調達し、利息を払っていかなくてはなりません。これらはすべて公営時代には、不要だったコストです。当然、その分は水道料金に反映されてしまうでしょう。

 加えて、水道事業は自然独占(消費者は水道管を選ぶことができないため、自然と地域一社独占になること)なので、いったん運営権を手にすれば、その後は競合する他社がいません。水道料金値上げを目指すのは自明です。しかも、多くの場合、民間水道サービス企業の収支は、会計上のテクニックを駆使して不透明にされています

 欧州では、噴出するこうした問題に気づいた市民と地方自治体が手を取り合って、再び公営化する方向に舵を切り、すでに178件もの水道事業が民営から公営に戻っています
 ところが、日本はその逆の道を進もうとしています2018年暮れに可決した改正水道法により、上水道の民営化が可能になったのです。

◆民営化は効率化なのか?
―― しかし、大企業の手によって民営化したほうが事業は「効率化」しますよね?

岸本:その効率はどこからくるものだと思いますか。要は、人員削減や賃金カット、そして必要な設備投資の先延ばしによって、数字が改善したように見えるだけです。

 あるいは災害対策に必要な経費を削減するわけですよ。もし災害が起こって水道管にトラブルがおこれば、公営の場合は水道職員が真っ先に現場に駆けつけます。しかし、民間企業であれば、危険を顧みずに現場に駆けつけるようなことは絶対にしません。そんなことをしても利益にならないからです。

 結局、民間企業の「効率化」のツケは、その地域にまわってきます。水道を管理できる人材が自治体から消え、徴収された水道料金は、グローバル資本に吸い取られ、町の外に流れていく。

 水道民営化とはすなわち、人材もお金も失う、地域窮乏化政策です。そのうえ、さらに高額な水道料金という負担を地域住民全員が強いられるのです。

―― とはいえ、水道料金が多少あがっても、影響は限定的なのではないですか。

岸本:一般に、上下水道料金が世帯収入の3%超えると支払いの負担を大きく感じ、5%を超えると支払いが困難な状態に追い込まれると言われています。この状態のことを「水貧困」(water poverty)と呼びます。

 水道を完全民営化したイギリスでは、2011年の段階ですでに、収入の3%以上を上下水道料金にあてている世帯が23・5%、収入の5%以上をあてている世帯は1割にも達していました。今はもっとひどいと思います。(ヨーク大学研究プロジェクトイングランドウェールズにおける水貧困」より)

 「水貧困」に苦しむ家庭では、トイレの水洗やシャワーの回数を減らすなど極端な節約を強いられていて、社会参加に支障をきたすほどです。「水貧困」は、社会の分断につながっていくのです。

 日本でも民営化後の水貧困の蔓延は、リアルな可能性として考えたほうがいい。年間の上下水道料金が9万円、月額で7500円ほどになると、年収300万円の世帯は水貧困に陥りますが、現状月額5000円程度の水道料金が1・5倍になるだけで、そうなるわけです。

◆国家と結託する水メジャー
―― 欧州で水道民営化への批判が強くなっている中、なぜ日本は周回遅れの民営化に踏み切ったのでしょうか。

岸本インフラの老朽化に対応する財源がないことが表向きには理由にされていますが、五輪やカジノリニアといった無駄なものにお金が使われている現状からすると、これは正しい説明にはなっていません。

 むしろ、水メジャーの視点から見たほうが分かりやすい。欧州の市場が縮小しているために、新たな市場として日本を見出したという側面が否定できないからです。欧州では水道民営化のデメリットが知れわたり、新たな民営化の契約を獲得することが難しくなっています。数十年にわたる契約の満期を迎えた自治体も、契約の更新をせず、再公営化を選ぶようになってきています。

 また、水メジャーにとって日本市場は魅力的。水質もよく、漏水率もわずか5%前後。少ない投資で多くの利潤の見込める大都市もたくさんある。たとえば東京都の水道局の純利益は333億円です。

 さらにいえば、水メジャーは水道以外の公共サービスも狙っています。彼らは複合企業化しており、交通やゴミ処理、清掃など、様々な公共サービスアウトソーシングを受注したり、民営化したサービスの経営を手がけたりしています。日本は欧州に比べて公共サービスの民営化が進んでいないので、新たなビジネスチャンスの宝庫なのです。

 しかも日本政府が民営化ビジネスの市場を7兆円規模にまで拡大させる方針を打ち出しています。ようは日本の国家の指導層とグローバル資本が結託しているのです。それに対抗して、市民が地方自治体とともに立ち上がってNOといえるかどうかが分岐点です。

◆奪われた「水への権利」を取り戻す
―― 欧州での再公営化の起爆剤は市民運動にあると指摘なさっていますね。

岸本:ええ。先ほど178件の水道再公営化があったと申し上げましたが、それは間違いなく、「水への権利」を市民の手に取り戻そうとする運動が巻き起こった結果です。

 水は誰にとっても必要なもの。人権なのです。あるいは、みんなの公共財・共有材〈コモン〉だとも言えます。民間企業の独占的な経営にゆだねるのではなく、公のものとして、市民も参加しながら管理するという方向を打ち出した運動が欧州では広がってきているのです。

 たとえば、スペインバルセロナ市では、水道の再公営化を求める市民運動から地域政党「バルセロナ・イン・コモン」が誕生し、市長を二期連続して擁立することに成功しました。
 いま、その勇気ある市長が、水メジャーと必死に闘っています。それを常に支えているのは、地域の市民運動です。

―― なぜ、中央ではなく、地方から再公営化運動は立ち上がってきたのでしょうか。

岸本:日本でも水道民営化に熱心で地方にそれを押し付けているのは、グローバル資本と結びついた国家のほうですよね? それは欧州でも同じです。新自由主義的な中央政府やEUに対して、地方からNOという運動が展開しているのです。

 水道民営化に反対する自治体は、世界中の自治体と協力し、国境を超えた運動に発展してきました。こうした動きは「ミュニシパリズム」(地方自治体主義)と呼ばれ、さらには「フィアレス・シティ」(恐れぬ自治体と呼ばれる世界的な自治体運動ネットワークに発展してきました。恐れぬ、というのは、国家やグローバル資本に対して恐れずNOをつきつけるという意味です。
 2020年現在、フィアレス・シティの拠点数は欧州49都市をはじめ、総計77にも及んでいて、東アジアではデモで北京に抵抗するあの香港が参加しています。

 フィアレス・シティのネットワークでは、市長や市議などが参加して活発に国際会議などを行い、地方から民主主義を活性化し、〈コモン〉である水やエネルギーや交通の運営権を再び自治体の手に取り戻す道を探っています。
 要は闘い方の戦略会議です。知識も〈コモン〉ですから、お互い、惜しみなく情報と戦略の交換をしています。そうでもしなければ、グローバル資本と闘うことはできません。実際、パリとジャカルタバルセロナが闘っている企業は、同一の水メジャーです。だから自治体どうしの連帯が非常に有効なのです。

◆水から変わる日本の民主主義
―― 日本の地方経済の衰退や地方議会政治の沈滞ぶりとはだいぶ違うようで、「フィアレス・シティ」など遠い話に感じます。

岸本:いえ、地方の政治家の汚職が絶えなかったり、経済が苦しかったりするのは欧州も同じです。むしろ経済の状況はもっと悪い国もあるくらいです。EUの財政規律のせいで苦しい思いをしているのも地方自治体です。その財政規律も、民営化に誘う絶好のカードになっています。
 しかし、だからこそ、水という、生きていくためにはどうしても必要なもののためにこそ、市民運動が活発になっているのです。

 日本では「フィアレス・シティ」の運動がほとんど報じられていないので、イメージしづらいだけで、でもその萌芽はいくらでもあります。
 たとえば、安倍政権が新型コロナウイルス感染予防のために学校に対して一斉休校を要請しましたよね。あまりに唐突で、生活している人たちの姿や地方経済の構造がまったく見えていない。単に「やってる感」の演出でした。
 そんな稚拙なトップダウンに対して、地方自治体にはむしろ住民の暮らしや生命、そして地元の経済を守ろうという気概がまだ残っている。実際、多くの自治体の首長が、安倍政権を恐れず、一斉休校に反発しましたよね。
 それがすなわち、「恐れぬ自治体」の精神です。そういう気概をもった議員や首長たちを、住民は声をあげて支えるべきです。それがあと少しで、大きな波として可視化されていく気配を感じています。

―― しかし、地方議会も自民党が与党のところが大半です。

岸本:だから、起点は住民でなくてはならないのです。浜松市の水道民営化反対運動は、地元住民たちが立ち上がって、きちんと成果をあげました。水道民営化に反対する3万筆以上の署名を集め、民営化検討作業を一時中止に追い込んだ。
 浜松市の市長は自民党系ではありませんが、民営化の旗振り役は市長。その市長が、民営化反対運動の勢いに怖気づいたのです。ちょうど市長選の前でした。

 自民党支持であろうが、保守系議員を応援していようが、水という共有材〈コモン〉の運営が民間企業の手にわたったときの弊害の情報を共有できれば、住民は運動に参加していきます。共有材〈コモン〉を企業の儲けの論理で、好き勝手にされていいのか、という「怒り」が、運動の起爆剤になるからです。

 この署名活動を主導したのは浜松水道ネット」(浜松市の水道民営化を考える市民ネットワーク)という市民グループです。彼らは地道に勉強会を開き、毎週水曜日には駅前に立ち、商店街で署名を集めました。選挙前には各政党に質問状を送り、水道民営化に対する立場を聞き出す。ある意味、古き良き草の根運動を展開し、市政を変えたのです。これを日本中に広げていきたい。

 水という国民全員にかかわる問題だからこそ、日本の民主主義を変えていく力を秘めていると思うからです。
(聞き手・構成 中村友哉)

【月刊日本】
げっかんにっぽん●Twitter ID=@GekkanNippon。「日本の自立と再生を目指す、闘う言論誌」を標榜する保守系オピニオン誌。「左右」という偏狭な枠組みに囚われない硬派な論調とスタンスで知られる。

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にゅうにゅう

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個人的にはガス・水道・電気のライフラインは民営化するべきではないと思っている。