大統領確実指名候補として登壇
ドナルド・トランプ氏が久々に公の場で演説する。
日時は28日夜(米東部時間)。場所はフロリダ州オーランドのハイアット・リージェンシー・ホテル。
「米保守連合」(American Conservative Union=ACU)が主催する「保守政治行動会議」(Conservative Political Action Conference=CPAC)の総会。
30年の歴史を誇る権威ある保守勢力の会議だ。主催する米保守連合は、「日本保守連合」(JCU=饗庭浩明議長)とも連携を保っている。
この会議では、毎年次期大統領選の共和党指名候補をストロー・ポール(党内世論を探る非公式な投票)で決めている。
今回は、トランプ氏を「大統領指名確実候補」に見立てており、これは行わない。現実は次期候補を誰れにするかで、共和党内の内戦が始まっているからだ。
コロナ禍を押して共和党員が各地からはせ参じ、一堂に会する。登壇者リストを見る限り、トランプ支持者がほとんどだ。なぜか、マイク・ペンス前副大統領は出席しない。
いずれにせよ今年もトランプ氏は招かれた。そのこと自体、2度にわたって弾劾訴追された史上初の大統領にとっては意義深い。
保守勢力の一部は依然としてトランプ氏を見捨ててはいないのだ。
激しいバイデン批判だったが・・・
トランプ氏は何を話すのか。
演説の10日前、トランプ氏は保守派メディア「ニュースマックス」のグレッグ・ケリー記者との電話インタビューで、講演で触れるであろうさわりをほのめかしている。
一番言いたいことは、退任以後、溜まりに溜まった(?)ジョー・バイデン大統領批判だ。
就任100日も経っていないのにトランプ氏の決めてきた内政、外交政策を次から次へと破棄している。トランプ氏が怒り心頭に発しているのは想像に難くない。
「彼(バイデン大統領)が(CNN主催のタウンミーティングで)就任した時には、コロナのワクチンは一つもなかった、と言っているのを聞いた」
「ワクチンを入手したのは去年の11月上旬だ。実際に手に入っていたのはそれよりも前だ。数百万人に接種をしていたし、ワクチンは数百万個もあった」
「彼は真実を言っていないのか、あるいは精神障害か。そのうちのどっちかだ」
「バイデン大統領」とは口が裂けても言わない。バイデン氏は「彼」でしかない。
今もマスクをするのを拒否しているトランプ支持の草の根一般大衆が聞いたら大喜びすること請け合いだ。
(https://www.westernjournal.com/trump-goes-after-biden-either-not-telling-the-truth-or-mentally-gone/)
新型コロナウイルス感染症で死亡した米国人はすでに50万人を超えている。
その責任は初動の鈍かったトランプ氏にある、といった批判が少なくない。いや、ほぼ定着している。
超側近だったトランプ政権高官までが、トランプ氏がマスク着用を拒否、支持者にも奨めていたことを今になって厳しく非難している。
トランプ氏としては、2024年の大統領候補になる、ならない以前にコロナ感染拡大の責任、汚名をそそがねばならない。
ところが、バイデン氏が実際にそんなこを言っていたか、どうか。ホワイトハウスの速記録によると、こうだ。
「われわれがホワイトハウス入りした時にはワクチンは5000万個しかなかった。ワクチンの蓄積はなかった」
「冷蔵庫にはワクチンはなかった。数字的にも1日で接種できるワクチンは1000万個しかなかった」
「今や、7月までには6億個のワクチンを入手している。すべての米国民が接種できるに十分な量だ」
(https://www.westernjournal.com/trump-goes-after-biden-either-not-telling-the-truth-or-mentally-gone/)
大統領を辞めても嘘つき癖は直らず
ニュース・サイト「ウエスタン・ジャーナル」のジョー・サウンダーズ記者はこう書いている。
「発言の事実をチェックするサイトの『ポリティファクト』が指摘するように、トランプ氏のウソ、事実誤認は大統領を辞めても直りそうにない」
(https://www.westernjournal.com/trump-goes-after-biden-either-not-telling-the-truth-or-mentally-gone/)
問題なのは、トランプ氏を熱狂的に支持する共和党草の根大衆は、ウソだろうと何だろうと、トランプ氏の言うことは一字一句信じて疑わないことなのだ。
トランプ陣営のジェイソン・ミラー上級顧問はそのことを百も承知でこう指摘する。
「トランプ氏は、いまだに共和党で絶大な人気を誇っている。(反トランプの)ベルトウェイ・インサイダー(共和党エスタブリッシュメント)と全米に広がる親トランプのグラスルート(草の根党員)との間には大きな溝ができている」
「トランプ氏を攻撃するということは、共和党のグラスルートを攻撃することを意味している」
(https://www.axios.com/trump-2024-republican-party-cpac-b687bd9f-6702-47cb-b1ac-d112deb23880.html)
止まらないトランプ分身術
トランプ氏が28日の演説で、2024年大統領選再出馬への意欲を表明するか、どうか。
主要メディアのベテラン政治記者W氏はこう指摘する(北京特派員経験があり、中国の古典を読むのが趣味だという)。
「たとえ出馬する気がなくなったとしてもトランプ氏は今は再出馬しないとは言わないだろう」
「大統領選に出るぞ、出るぞと言い続けることで党内力学に影響を与えたいからだ」
「トランプ氏は何といってもついこの間まで大統領だった男だ。しかも、2度も弾劾訴追されたという『勲章』を持っている(笑)。そんな政治家は現存しない」
「支持者もいるし、票田も持っている。軍資金もたっぷりある。来年の中間選挙では自分がいないと共和党は民主党に勝てないと本気で思っている」
「2024年も再出馬するぞと言っておかないと、党内エスタブリッシュメントはまともには受け止めないと思っているのだ」
「トランプ氏は一時『新党・愛国者党』構想をちらつかせて弾劾に賛同する共和党議員を牽制した。裏切った議員は出たが、上院での弾劾は阻止できた」
「新党構想は共和党下院トップのケビン・マッカーシー院内総務との差しの会談で撤回したが、裏切り者への仕返しは諦めていない」
「トランプ氏は中間選挙の予備選に向けて動き出している。弾劾訴追に賛同した現職の共和党下院議員を片っ端から落選させるというのだ」
「長男のドナルド・ジュニアや長女のイバンカ氏を上院選や下院選に立候補させる。トランプ政権で働いた政府高官の政界入りも促している」
「中国古典小説の『西遊記』に出てくる孫悟空が自分の毛を抜いて息を吹きかけると分身がどんどん出現する『身外身』術のようなものだ。(笑)」
トランプ氏はさらに選挙人制度の実施を左右しかねない州知事や州議員の選挙にまで目を光らせている。
「トランプ孫悟空」の身外身術で出現した候補者たちは次の通りだ。
●弾劾に賛同したパット・トゥウィー上院議員(ペンシルベニア州選出)を追い落とすためにケネス・ブレーンウェイト元海軍長官とカーラ・サンズ元駐デンマーク大使(女性実業家)の予備選出馬を促す。
●弾劾では優柔不断だった現職のマルコ・ルビオ上院議員(フロリダ州選出)に代わって、イバンカ氏を立候補させる。
●アラバマ州上院選ではクリフ・シムズ元国家情報局次長を立て、2022年再出馬しない現職のリチャード・シェルビー議員の後釜に据える。
●下院では弾劾訴追のリーダー格リズ・チェイニー議員(ワイオミング州選出、ディック・チェイニー元副大統領の長女)を追い落とすために、当初は上院選出馬を狙っていた長男のドナルド・ジュニアを急遽、下院予備選に立候補させる。
●オハイオ州では弾劾訴追に賛同したアントニー・ゴンザレス下院議員を追い落とすためにホワイトハウス高官だったマック・ミラー氏の予備選立候補を後押し。
●州知事選には子飼いのセラ・ハッカビー元大統領補佐官を擁立、反トランプのエイサ・ハンチントソン現アーカンソー知事の再選を阻止。
(https://thehill.com/homenews/campaign/539978-former-trump-officials-eye-bids-for-political-office)
最高裁、「大統領の免責特権」剥奪
なぜそれほどまでして「闇将軍」になりたいのか。「孫悟空」の「身外身」術を使いたがるのか。
「トランプ・レガシー」を守るためだと側近が言うが、そんなきれいごとではなさそうだ。
予想された通り、大統領を辞めてただの人になったトランプ氏とその一族を待ち構えているのは法廷だ。
在任中、トランプ氏は保守派判事を次々と最高裁に送り込み、最高裁の保守化は成功したかに見えた。
しかし、最高裁判事はやはり米国憲法の守護神だ。最高裁はトランプ氏が望むような判決は下さない。
最高裁は2月22日、トランプ氏がこれまで「大統領の免責特権」をタテに拒否してきた納税申告書など財務記録の開示を命じた。
2020年7月、最高裁は、トランプ氏が主張してきた「大統領の免責特権」を認めない判断を示した。いわば外堀を埋めたのだ。
今回の判決は、「7月判決」を受けた第2弾で、内堀を埋めたことになる。
これまでニューヨーク市マンハッタン地区検察局は、①トランプ氏の元不倫相手のポルノ女優への口止め料支払い疑惑(選挙資金が流用されたとみられる疑惑)捜査②トランプ氏の関連企業が絡む経済犯罪捜査を続けてきた。
そのためにはこれらの財務記録が必要だったが、トランプ氏は過去4年間拒否し続けてきたのだ。
これらの財務記録が開示されれば、捜査の突破口が開かれることになる。捜査が本格化する。
ニューヨーク・タイムズが2020年9月27日付で報じたところによると、トランプ氏は大統領就任前の15年間のうち10年間、所得税を支払っていなかったという疑惑が持ち上がっている。
(https://www.nytimes.com/2020/09/27/us/trump-taxes-takeaways.html)
(https://www.nytimes.com/2020/10/31/us/trump-taxes-readers-guide.html)
ニューヨーク・タイムズは独自に入手した納税申告に基づく情報だとしている。
その後この情報源は私だ、と名乗りを上げたのは、トランプ氏のたった一人の姪、メアリー・トランプ氏(臨床心理学博士)。
その後、自ら筆をとった「Too Much Never Enough」(邦訳「世界で最も危険な男:『トランプ家の暗部』を姪が告発)という本を昨年7月に出版している。
(https://www.amazon.com/dp/1982141468/)
本と言えば、トランプ氏の顧問弁護士として前述の口止め料訴訟を担当したマイケル・コーヘン氏も「Disloyal: A Memoir: The True Story of the Former Personal Attorney to President Donald J. Trump」という本を昨年9月に上梓している。
(https://www.amazon.com/dp/1510764690/)
選挙資金乱用で禁固刑を受け、服役中に獄中で書いた本だ。
ニューヨーク市マンハッタン地裁で審理が始まれば、同氏は「スター証人」として脚光を浴びるのは間違いない。
(https://www.rawstory.com/michael-cohen-2650551302/)
それに先立ち、ドナルド・ジュニアは2月22日、こう反論している。
ただし、さすがに最高裁の判決に対してではない。民主党の影響力が強いとされるニューヨーク市マンハッタン地区検察局に対してだ。
「父に対する政治的迫害だ。米司法制度の悪臭がプンプンする。これでは中国と同じだ」
もはや大統領の長男ではなくなったドナルド・ジュニア。かってのような破壊力はない。彼も今やただの人に過ぎないからだ。
[もっと知りたい!続けてお読みください →] 米国、2022年の北京冬季五輪をボイコットか
[関連記事]
(出典 news.nicovideo.jp)
【始動、死に物狂いトランプの戦い】の続きを読む