韓国と北朝鮮の統一と聞くと「巨大反日国家」の誕生をイメージしてしまうかもしれない。しかし、コリア・レポート編集長の辺真一氏は、むしろ日本にとってはコロナ騒動に乗じて増長する中国と対峙する上で大きなメリットがあるという。そのヒントは、5名の拉致被害者が帰国するきっかけとなった2002年の日朝首脳会談にあるようだ。
金正日総書記との「日朝平壌宣言」の重み
韓国の文在寅大統領が目指す韓国と北朝鮮の統一が実現した場合、多くの日本人の頭には、「南北統一は日本の脅威なのではないか」と考えがちです。
日本をいつも批判してきた2つの国が合体し、しかも地政学的にもお隣りにあるわけですから、不安になる気持ちもわからないではありません。
結論から言ってしまうと誤解です。
むしろ統一してもらったほうがいい。
なぜなのか。その理由の前に、まずは日本と北朝鮮との関係性について考えてみてみましょう。
振り返れば、日本の総理大臣が歴史上、初めて北朝鮮のトップと会ったのは、2002年9月17日。当時の小泉純一郎総理がアメリカに先駆けて電撃訪朝し、金正日総書記と会談しました。
そのとき、小泉総理が何を言ったか。「わたしは北朝鮮のような近い国との間で、懸念を払しょくし、互いに脅威を与えない協調的な関係を構築することが日本の国益に資 するものであり、政府の責務として考えている」と言ったのです。
このあと調印された「日朝平壌宣言」は、総理のこの発言がベースになっています。 これは、非常に重要なことを言っています。
つまり、日本が北朝鮮と協調的な関係を構築することは、日本の国益にもなるんですよと。簡単にいえば、仲良くなれば日本も得するということなんです。
もちろん、その前には「懸念を払しょく」、すなわち拉致問題、核問題、ミサイル問題、過去の精算問題、いろいろハードルはあるけども、最終ゴールは「お互いの国益に資する」というところなわけです。
平壌宣言にも「双方は、北東アジア地域の安定と平和を維持、強化するため、互いに協力していく」ことが確認されていました。
あれから20年近くたった今、現状は何も変わっていません。むしろ悪くなっているかもしれない。平壌宣言も生かされていません。死文化しているどころか、もう誰も覚えていないのではないでしょうか。
しかし、この宣言は実はそんなに軽いものではなくて、非常に大事なものです。その 後の日本の歴代政権も、今の金正恩政権も、日朝間で何か話し合うときは、指針になるのは、結局はこの平壌宣言なのです。
2014年にストックホルムで日朝政府間協議が行われたときも合意文書が作られましたが、その中身も「日朝平壌宣言に則って真摯に協議を行った」となっている。
あるいは、翌年のマレーシアでのASEAN会議のときも、当時の岸田外務大臣が、 北朝鮮の李洙墉(リ・スヨン)外相と会談し、「昨年の日朝合意の履行」という前提でもって、拉致のことや、安全保障のことなどを話しているわけです。
日本と北朝鮮が何かを話すときは、常にこの平壌宣言が基本になる、そしてその骨子は、繰り返しになりますが、北朝鮮と協調的な関係を構築することは、日本の国益にもなるということなのです。
中国は日本海を共有していない
拉致問題で北朝鮮が不誠実な対応を取り続けていたというのは、確かにそうです。日本政府も日本国民も当然、怒ります。
一方で、日本が北に制裁を科し続けると何が起こるかというと、端的に言えば北朝鮮の中国依存が深まります。
中朝関係は、北朝鮮の6回目の核実験などを巡って悪化した時期もありましたが、2020年の今は蜜月といってもいい状態。両国の接近は、アメリカに対するけん制のカードにもなると同時に、日本の安全保障にとっても大きな懸念材料となります。
一方で、北朝鮮という国は、たとえ中国と仲良くしたり、経済的に頼りきったりする形になっても、外交や軍事面で中国に隷属されることは絶対にありません。これがこの国の最大の特徴であり、ある意味で強みなのです。1953年の朝鮮戦争休戦後以降、安全保障を中国に依存してきませんでした。
日本は確かに北朝鮮に手を焼いていますが、助かっていることがあるとしたら、それは北朝鮮が中国に基地を貸したり、日本海に面した北朝鮮の軍港を中国の海軍に使用させたりしていないということなのです。
仲がいいようでしっかり距離を置いているのです。
仮に中国が日本海側から日本を軍事的に牽制しようとしたら、北朝鮮の東海岸に面した港、すなわち羅先や元山、清津は、軍港として重要な拠点となる可能性があります。
もし、中国海軍が潜水艦基地としてここを使うような事態になれば大変です。日本にとっては軍事的な脅威。尖閣諸島の危機はいっそう高まることになります。
現状は日本は北朝鮮と日本海を共有していますが、中国は日本海に出られません。 しかし、日本が北朝鮮をいつまでも追い込んで、北朝鮮が自国の港を中国へ貸してあげるような状況を作れば、結果として中国は日本海を自由に使えるようになり、日本が危険にさらされます。
小泉元総理が訪朝したときに、「北東アジア地域の安定と平和を維持、強化する」ことに合意したというのは、そういう重い意味があるわけです。
言い換えれば、南北が統一して日本と良好な関係を築けば、こうした中国による軍事的脅威を抑えることができるということなわけです。
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(出典 news.nicovideo.jp)
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