マンションは複数世帯が共有するため、避難場所として利用すべきかどうか判断に迷う場合があります。しかし、住民が安全に避難できるような枠組みが整っていないと、混乱が生じて被害が拡大することにもなりかねません。マンションの防災対策を進めることが重要です。

自然災害が発生したとき、マンションは戸建て住宅と構造が異なり、住民も多数いるので、特有の対策が必要となります。特に、マンション住民に対する「公的サービス」は後回しにされがちであることを知っておく必要があります。旭化成不動産レジデンスマンション建替え研究所副所長の大木祐悟氏とNPO法人かながわ311ネットワーク代表の伊藤朋子氏が著書『災害が来た! どうするマンション』(ロギカ書房)から解説します。

災害時の「公助」はあまりあてにできない

「自助」とは、災害が発生したときに、まず自分自身の身の安全を守ることです。この中には家族も含まれます。

「共助」とは、地域やコミュニティといった周囲の人たちが協力して助け合うことをいいます。

そして、市町村や消防、県や警察、自衛隊といった公的機関による救助・援助が「公助」です。

成熟した現代社会で当然とされる様々な行政サービスが機能しなくなるのが大規模災害です。

私は、防災について学び、いろいろなところで防災の研修を担当してきましたが、その経験から行政による災害対応の仕組みと一般市民のイメージには乖離があることを感じます。いくつか例を示します。

避難所は住む家を失った人のためのもの

避難所を利用する避難者数は、基本的に家が全壊、全焼した人全員、家が半壊半焼した人の半分を基本に算定されています。過去の事例から、発災直後は、避難者の3分の1は被災地外へ疎開し、3分の2が避難所で過ごすとされています。

たとえば、横浜市戸塚区ケースで考えてみましょう。

戸塚区の人口は274,000人、最大級の被害が予想される「元禄型関東地震」での建物被害は約14,000棟、避難者は約41,000人が想定されています。

避難所(地域防災拠点)は35箇所が設置されていますが、アンケート回答のように、住民の半数137,000人が避難所に入ると、平均するとそれぞれの避難所に3,900人強の市民が避難をすることになります。これは現実的な状況とは考えられません。

避難所は家を失った人がメインの利用者です。建物が危険な状況でない限りは、マンションの住人は在宅避難で復旧に向けて協力していくことになります。

「被災」の基準は住宅の破損度

現状では、住宅の破損度が災害時の被災度の基準なので、まずは住居を失った人への住まいの提供が最優先となります。家が無事でも被災地エリアでは多かれ少なかれみんなが被災者ですが、支援の優先度は家を失った人から、となります。

破損度合いが相対的に少ない建物の住人の支援は、どうしても後回しになります。

避難所は住民の共助で運営

大規模地震の際の避難所の運用は自治体によって異なりますが、多くの自治体では避難所運営委員会などの組織をつくり、地域の自治会町内会などが運営を担う仕組みとなっています。

つまり、共助の一環です。ところが、多くの市民の方は、これらを行政サービスだと思っているのではないでしょうか。

災害が起こったときは、とにかく避難所に行けば、職員が大変でしたね、と迎えてくれて、水と食料がもらえる、と思っていませんか?

災害直後の時期は、多くの市民は自助、共助で乗り越えて行かなくてはならない時期です。

次に、多くのマンションの実態と災害時に起こることについて考えてみましょう。図3-2 をご覧ください。

防災意識の必要性

マンションは、建物の耐震性が高いことや、コミュニティ活動が少ないことなどにより、マンション住民自身の災害に対する知識や準備が不十分になりがちです。

その結果、いざ大きな災害に直面すると、準備も覚悟も無いまま「被災者」になってしまいます。

マンション住民と地域との接点は不可欠

避難所は家を失った人の仮住居という機能の他に、地域の在宅避難者の支援の拠点でもあります。

マンション住民と、町内会や連合町内会などの地縁組織との接点が薄いと、避難所と連携がとれず、結果として在宅被災者支援機能の対象から外れてしまうことになります。そうなると、災害後の行政からの支援情報や支援物資がうまく届かなくなります。

マンションの特性について理解すべき

マンションという共有財産の課題(構造、所有、補修)に関する理解が不十分な方が多いです。

すなわち、「建物の構造部分」や、「廊下」・「階段」・「エレベータ」等の「共用部分」と土地は、基本的には区分所有者全員で共有しています。

したがって、「構造部分」や「共用部分」の管理や変更をするときは、管理組合の総会等の決議が必要です。

こういった基本の理解がないまま、被災、復旧のプロセスに突入すると、住民の合意がとれず、復旧が遅れることとなります。

大木祐悟

旭化成不動産 レジデンスマンション建替え研究所 副所長

伊藤朋子

NPO法人かながわ311ネットワーク 代表

(※写真はイメージです/PIXTA)


(出典 news.nicovideo.jp)