確かに政治家には強く言われることは必要だと思いますが、それと同時に国民の意見にも耳を傾ける姿勢が必要だと思います。どちらか一方に偏ることなく、バランスの取れた政治をしてほしいです。

 どうでもよさそうな小ネタから大事なことが見えてくることもある。最近だとこちら。

『「ジューシー」発言だけじゃない 岸田首相にみられる“安倍化”の兆候』(東スポWEB5月11日

 首相が名産品のメロンを食べて「ジューシー」と感想を述べた。かつて安倍晋三元首相も多用したのが「ジューシー」という言葉だったので“安倍化”の兆候というのだ。

 どうでもいい……いや、どうでもよくない。

岸田首相に感じた「野心」

 というのも最近の岸田首相はたしかに安倍元首相っぽい戦略を感じるのである。例えば5月3日憲法記念日には産経新聞の一面に登場した。

『改憲へ国民投票 早期に 首相 任期中の実現意欲 本紙インタビュー

 媒体を選んでインタビューに応じるのは安倍氏がよく使っていた手法だ。憲法記念日に改憲派の産経を選ぶのは「保守派への配慮」が見える。まさに“安倍化”の兆候かもしれない。

 だが実は安倍化ではなく安倍超えという野心を抱いているのでは? と思わせる記事もあった。GW期間中に読売新聞朝日新聞は首相に関する連載を載せていた。注目したのは岸田首相の言葉の数々だ。まずは昨年末にこう言ったという。

「俺は安倍さんもやれなかったことをやったんだ」(朝日新聞5月4日

 岸田政権は昨年12月、国家安全保障戦略など安保関連3文書を改定し、敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有を決めた。原発政策では再稼働の推進だけでなく、建て替えや運転期間の延長に踏み込む方針を決定した。なので高揚感を隠しきれない様子で周囲に語ったというのだ。

長期政権を意識している?

 さらに3月上旬には自派「宏池会」の中堅・若手議員らに

「今年の夏までやれば宮沢喜一さんを抜く」

 と口にしたという(朝日新聞5月6日)。「抜く」というのは宏池会の先輩である宮沢喜一の首相在任日数644日のことだ。

 この言葉を聞いた一人は「池田さんを超える長期政権を意識している」と感じたとも。ちなみに宏池会出身の首相の最長が池田勇人1575日。2026年の1月まで首相を続ければ、岸田首相は「池田超え」を達成する。当然ながら来年9月に任期満了を迎える自民党総裁に再選されることが前提である。

 そうか、岸田首相は長期政権を狙っているのか。となると気になることがある。では何をやりたいのか? という点だ。しかしそれは今に始まったことではない。首相に就任したばかりの頃、私は「本当は怖い岸田政権」だと感じた。ビジョンがなくこだわりがない様子はなんでも飲み込んでしまいそうに見えたからだ。昨年の正月、健在だった安倍氏読売新聞インタビューで次のように語っていた。

《国会では、憲法改正論議の進展に期待しています。ハト派の宏池会から出ている岸田首相の時代だからこそ、一気に進むかもしれません。》(2022年1月3日

「暖簾に腕押し」作戦

 今だと予言のようにも読める。こういう政策は岸田首相のように何もこだわりがなさそうなトップのときにこそ実現するのだろうか? と以前に書いたが、敵基地攻撃能力(反撃能力)の次はやはり憲法改正なのだろうか。

 そこで気づくのは岸田首相の「戦法」である。このように議論が活発になりそうなお題は感情が激突することがある。安倍氏はしばしば国会で感情的になった。しかし岸田首相は何を言われても「糠に釘」なのである。応えない、響かないのだ。実際に著書『岸田ビジョン』では、

政治家は、罵倒されたからと言って自分が感情的になってはいけません。糠に釘ではないですが、ありがとう、と笑って受け流す『暖簾に腕押し作戦』で切り抜けるしかありません。》

 と書いている。

大事件後にも「脱力ネタ」が

 脱力してしまうが「感情的にならない」のメリットをあげれば、「煽らない」ということでもある。最近で言えば和歌山での遊説会場に爆発物が投げ込まれたあとも首相は淡々と遊説を続けていた。帰京後にはいつものように理髪店に行っていた。留飲を下げるようなことは言わずにすべてを日常化してしまう。熱狂は生まない代わりにすべてを淡々とさせる。

 だからだろうか、岸田首相は大事件の後にもかなりの割合で脱力ネタがついてまわる。決死の覚悟でゼレンスキー大統領に会ったという大ネタの後には「必勝しゃもじ」、爆発物事件の後は「うな丼大臣のスピーチ」である(各自確認)。あたかも脱力ロンダリングが発生して人々の感情をたかぶらせないようにしているみたいだ。

「本当は怖い岸田政権」なのか

 そんななか着々と岸田首相は「安倍さんができなかったこと」をしている。先週末にはこんなニュースも。

『軍事大国化が「日本の選択」 岸田首相タイム誌表紙に』(共同通信5月11日

 米誌タイム岸田首相を表紙に掲載したのだが、「長年の平和主義を捨て去り、自国を真の軍事大国にすることを望んでいる」と首相を紹介した。現在は見出しが変わって「首相は平和主義だった日本に、国際舞台でより積極的な役割を与えようとしている」になっている。外務省が異議を唱えたという。でも海外メディアからは岸田首相は大転換しているように見えるのだろう。

しかし同時にセットなのが「具体性に乏しい答弁が多く、議論が深まっていない」(朝日新聞5月9日)という姿勢でもある。昨年末にどさくさに発表した安保関連3文書改訂など、もろもろの案件を思い出す。でも物事はどんどん進んでいく。やはり「本当は怖い岸田政権」ではないだろうか。

(プチ鹿島)

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(出典 news.nicovideo.jp)