《トランプ支持のキリスト教福音派の熱狂、自己啓発の異常発達…》東 ... - 文春オンライン 《トランプ支持のキリスト教福音派の熱狂、自己啓発の異常発達…》東 ... 文春オンライン (出典:文春オンライン) |
日本はアメリカ型民主主義から脱却せよ――。批評家・作家の東浩紀氏と、批評家の先崎彰容氏による対談「激論! 戦争・正義・平和」(「文藝春秋」2023年4月号)の一部を転載します。
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先崎 ウクライナ戦争や中国の台頭は、いまの世界に「このままのシステムでやっていけるのか」という根源的な問いを突き付けています。プーチンの侵略は欧米中心の国際秩序への明らかな反抗ですし、インフレの加速で資本主義経済は世界的に低迷している。民主主義の優等生で、資本主義のトップランナーであるアメリカでも行き詰まりは顕著です。当然、急成長を続ける中国の脅威にさらされた日本にとっても、今の状況は他人事ではありません。
今こそ少し立ち止まって、日本がよって立つべき理念や、目指すべき国家像をみつめ直すことが必要ではないでしょうか。そうしてはじめて、日本が抱える真の課題と解決策が見えてくるはずです。
東 1年前にウクライナ戦争が始まって以降、「権威主義対民主主義」という言葉が盛んに語られるようになりましたね。野蛮な中国やロシアに対して、欧米を中心とする自由民主主義の国々が「正義」の秩序を回復させるために戦う。けれども、この構図は時代の流れに逆行しているように思います。
1990年代、アメリカの政治学者フランシス・フクヤマは、著書『歴史の終わり』で、アメリカ型の自由民主主義が政治体制の究極形態であって、それが世界中に行きわたることで世界は安定する、と主張しました。ところが、同書の出版から30年が経った今、「そうはうまくいかない」ということがハッキリしてきた。「やっぱり、世界は色んな価値観を認めて多極化するしかないだろう」というわけです。
先崎 最近は「グローバルサウス」という言葉をよく聞くようになりました。ブラジルやインドのような国は、経済的自信を背景に、欧米に追従するのではなく、自分たちのやり方で成長を続けています。
東 それなのに、前述の「フクヤマ史観」が一部の業界で亡霊のように再来している。「多極化なんて言っているとヤバイ奴が出てくるから、自由民主主義で世界を覆い尽くすしかない」と。しかし、これこそ現実的とは思えない。
先崎 同感です。世界の多極化は、アメリカ中心の西側社会が当たり前だと思っていた価値観を揺るがすと同時に、世界中で民族問題など情念的なものを噴出させている。これが今の状況だと思います。
アメリカの「正義」に同調していいのか東 いま、世界では「正義の原理」と「平和の原理」がぶつかり合っています。この点については、早稲田大学の古谷修一教授が朝日新聞のインタビューで語っていて、非常に刺激的でした。
どういうことかというと、ウクライナ戦争では、これまでの戦争と違って、人権意識が前面に出るようになった。無辜の民たちの人権を侵害するプーチンの「悪」と、それを許さない「正義」。こうした図式になったために、お互いが妥協して成立する「平和」が実現しにくくなっている、という指摘です。
先崎 ウクライナのゼレンスキー大統領は、プーチンに対する「正義」を錦の御旗にして、国際社会にアピールしましたね。右向けば右、となりがちな日本の世論は、アメリカに完全に同調して、その正義を「絶対善」とみなしている。しかし、それで本当に良いのでしょうか。
東 民主主義という言葉を、アメリカの特殊性から引き剥がす必要があると思います。最近、トクヴィルの『アメリカのデモクラシー』を読み返したら興味深いことを言っていたんですよ。
先崎 19世紀フランスの政治学者トクヴィルの歴史的名著ですね。
東 この本でトクヴィルは、民主化を世界が進むべき道と位置づけながらも、アメリカの特殊な条件を繰り返し強調しています。
なぜ、アメリカで民主主義が発達したのか。トクヴィルによれば、その理由はまず、ヨーロッパと遠く海で隔てられているという地政学的な条件にあります。
ヨーロッパのように小さな主権国家がひしめきあう地域では、外敵からの攻撃に備えるために集権的な政治体制が必要とされる。そうでないと、いざ攻められたときに迅速に対応できませんし、軍をコントロールできなくなる危険性もある。
一方のアメリカには、敵となりうる国が近くにいませんでした。だからこそ、意思決定に時間がかかる民主主義も成立したというのです。
先崎 なるほど。パンデミックでも、強権的な国とそうでない国で、明暗が分かれましたね。コロナの拡大が始まった当初、中国は国民に徹底した行動制限を強いたことで、世界で唯一、封じ込めに成功していました。欧米各国も強制的なロックダウンを行わざるをえなかったわけですが、こうした権力の発動は、ある意味で民主主義の自己否定に近い。
「アメリカは極めて独善的な国だ」東 さらに、トクヴィルはアメリカ民主主義の特殊性として、宗教との関係にも注目しています。
当時のヨーロッパでは、民主主義者と言えば反宗教でした。ところがアメリカは、そもそもイギリスからメイフラワー号で海を渡ったピューリタンたちが作った国です。弾圧を逃れて、理想的な国家を建設しようとした。信仰の自由を求めた彼らの宗教的情熱と「自由と平等」という民主主義的な理念が、アメリカではたまたま一致することになる。
先崎 それは、大統領選挙を見てもよく分かります。日本人からすると、トランプを支持するキリスト教福音派の人たちが演説であれほど熱狂したり、あからさまに相手を批判したりする光景は異様に見える。あと、自己啓発という行為や文化が異常に発達しているのもそうでしょう。自由の国と言えば聞こえはいいが、イギリスから海を渡ってきた“根無し草”の人たちが、聖書を読み解いてくれる人に情熱的に駆り立てられて、それによって日々のストレスを発散した「反知性主義」の伝統が彼の国にはある。宗教も民主主義も「アメリカ的」なのです。
東 アメリカの「正義」や「自由」は、かなりのところ特殊な歴史的・地政学的条件に基づいている。この点にはしっかり注意しなければなりません。今、全世界で衝突が起きているのは、それぞれ独自の歴史や文化を持つ国に、民主主義の名のもとにアメリカ型の価値観を押し付けているからではないでしょうか。ロシアや中国にしても、民主化してもらわないといけないのは確かです。しかしそれがアメリカ型である必要はない。
先崎 先日、とある外務省幹部から面白い話を聞きました。その方が言うには、太平洋諸島地域をまわると、現地の人たちは「アメリカは極めて独善的な国だ」と感じているそうなんです。やっぱり、自分たちの価値観の普遍性を自明なものと考えてしまっている。要するに、アメリカは上から目線なわけです。
特殊なことを実践している“実験国家”という意味では、実はアメリカって、ソ連とか中国に近い国なんですよ。
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東浩紀氏、先崎彰容氏による対談「激論! 戦争・正義・平和」の全文は、月刊「文藝春秋」2023年4月号と、「文藝春秋 電子版」に掲載されています。

(出典 news.nicovideo.jp)
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