選挙が「トランプ前大統領の評価を問う」になってしまった。

米中間選挙で民主党が予想外の善戦。その要因を分析するパックン
米中間選挙で民主党予想外の善戦。その要因を分析するパックン

民主党バイデン政権の「通信簿」であり、2024年に予定される次の大統領選挙の実質的なスタートとも言われるアメリカの中間選挙が11月8日に行なわれ、「野党・共和党の圧勝」という事前の予想に反して、民主党が善戦。下院では僅差で共和党に負けたものの、上院では多数派を維持することになった。

その背景には何があるのか? この選挙結果はアメリカをどう変えるのか? そして2年後の大統領選でトランプが復活する可能性は? 世界が注目したアメリカ中間選挙をお笑いコンビパックンマックン」のパックンこと、パトリック・ハーランさんが読み解く!

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──2年後の大統領選挙の行方を占う意味でも重要とされる、中間選挙が終わりました。議会上院では民主党が多数派を維持。下院では共和党が多数派となったものの、こちらも予想外の僅差でした。

パックン 大統領選挙の2年後に行なわれる中間選挙って、そもそも大統領の政党、つまり与党が負けるというのが「鉄則」なんですよ。

歴史を振り返ってみても、近年の中間選挙で政権与党が上下両院を制したのは2002年ジョージ・W・ブッシュ大統領だったときの共和党ぐらい。ちょうど2001年に起きた911テロの後で、アメリカ国民もテロへの怒りから好戦的になっていた時期だったので、中間選挙で勝利したブッシュ政権はその後、イラク戦争へと突っ走りました。それ以前だと、世界恐慌後の1934年の選挙で勝ったフランクリン・ルーズベルト大統領のときぐらい。

今回、確かに民主党は下院で負けているんですが、改選前の220議席に対して、マイナス幅は10議席以内に収まりました。オバマ政権のときの中間選挙が民主党マイナス63議席、ビル・クリントン政権のときが民主党マイナス54議席、トランプ政権のときも共和党マイナス41議席でしたから、これらと比べると今回、民主党は下院でも「大善戦」したと言っていいでしょう。

もともと今回の中間選挙は共和党の圧勝が予想されていて、アメリカがまた反動で大きく右に振れるんじゃないかと世界からも注目されていたわけですが、意外にその振り幅が小さかったということで外国のリーダーたちも安心しているみたいだし、この結果を受けてマーケットも上昇しているんですね。国際社会も、経済界も、アメリカ国家主義や大衆迎合主義に走るのは不安だし、アメリカが「マトモな政治や政策で勝負する国」に戻ってほしいと思っていたはずで、僕自身も含めて今回の結果に少しホッとした人は多いんじゃないかと思います。

──大統領の政党が負けるのが「鉄則」で、選挙前に共和党の圧勝が予想されていた中で、民主党がここまで善戦した理由はなんだったのでしょうか?

パックン 主に3つあると思います。ひとつは今年6月、アメリカの連邦最高裁人工妊娠中絶の権利は合憲であるとした73年の最高裁判決を覆したこと。共和党は50年ぐらい前から中絶反対の感情を煽っている。トランプ大統領もその戦略に沿い、保守派の最高裁判事を任期中に3人も指名したことで、最高裁で中絶反対の判事が多数派になった。6月の判決はある意味、彼の公約通りの結果だったわけで、それ以降、半分ぐらいの州で中絶はすでに禁止になっているか、なりそうになっている。この状況を見て「これはまずいじゃん!」と、全国の女性たちや、中絶の権利を大事に思う有権者が動いた。

ふたつ目は、トランプ政権時代に顕在化した「民主主義制度への脅威」に対する危機感です。トランプは今も「2年前の大統領選挙は不正に盗まれたものだ」と主張しているのですが、今回の中間選挙ではそのトランプに支援され、「前回の大統領選挙結果は認めない」と主張する共和党候補が、上下両院や州知事、州の司法長官選挙も合わせると全部で300人近くも出馬していて、その過半数が当選する見込みだと報じられていました。

仮に彼らが州知事や州の司法長官になったりすると、その人たちが次の選挙の運営や結果承認、選挙人の指名担当になる。つまり、今みたいに外から「不正だ」「選挙は盗まれた」と正当な根拠もないまま騒いでいる人たちが、選挙そのものの管理側になるわけで、これを「民主主義制度の危機」と感じて民主党に投票した人も多いと思います。

そして、最後の要因はやはりトランプ自身です! 今回の結果にトランプが及ぼした作用はふたつあり、ひとつは今言ったように、彼が極端な主張をする連中を共和党の候補に推したせいで、もう少しマトモで中道的な候補なら勝てたかもしれない激戦区で共和党が負けてしまった。

もうひとつは、「トランプ自身が目立ち過ぎたこと」です。選挙前から共和党の圧勝ムードが広がる中、トランプが「自分が次の大統領選挙に出る」......と、ハッキリとは表明してなかったけど、「表明する表明」をしてしまったせいで、普通なら「現大統領の評価を問う」はずの中間選挙の焦点が、「前大統領であり、次期大統領候補にもなりそうなトランプの評価」を問う選挙へとシフトしてしまった。

──つまり、トランプが悪目立ちしすぎて、逆にリベラル派や無党派の人々の危機感を呼び覚ましてしまったということですね。

パックン そういうことです。トランプが自分のファンに「共和党を支持しろ」って言うだけだったらまだいいんですよ。ところが今回の選挙期間中、トランプはあちこちの候補の集会とかに出て演説したんですけど、彼はそこで共和党の主張やその候補をホメるんじゃなくて、「自分がどんなにすごいのか」とか「次の大統領選挙がどんなに楽しみなのか」ということばかりアピールした。候補者の集会を自分のイベントに変えて、スポットを自分に当てようとしちゃうんです。

こうやって振り返ると、今、僕が挙げた共和党の敗因のすべてにトランプが絡んでいる。バイデン大統領の支持率はトランプ大統領のときと同じくらい低水位だったし、アメリカは今、深刻なインフレで、ガソリン価格も高い。与党・民主党が負ける要因はいくつもあって、40~50議席減らしてもおかしくない状況だったのに、民主党がこれだけ善戦できたのは「トランプのおかげ」だと言えるでしょう。

今回、与党・民主党は上院で勝って、下院を僅差で落としましたけど、仮に民主党が上下両院を制すようなことが起きていたら、それは「ドナルド・トランプの存在」が、「911同時多発テロ」や「アフガンイラク戦争」あるいは「世界恐慌」に匹敵するほどのインパクトを持つ、クライシスだったと言えます!

●この続き、後編は明日配信予定!

●パトリック・ハーラン
1970年生まれ。アメリカ・コロラド州出身。93年ハーバード大学比較宗教学部卒業。97年、吉田眞とお笑いコンビパックンマックン」を結成。現在、「AbemaPrime」、「報道1930」でコメンテーターを務めるなど、報道番組にも多数出演。最新刊『賢く貯めて手堅く増やす パックン式 お金の育て方』(朝日新聞出版)など著書多数

取材・文/川喜田 研 撮影/保高幸子

米中間選挙で民主党が予想外の善戦。その要因を分析するパックン


(出典 news.nicovideo.jp)