(北村 淳:軍事社会学者)
「新聞通信調査会」の調査報告書(「第15回メディアに関する全国世論調査(2022年)報告書」)によると、「日本が他国から軍事攻撃を受ける不安をどれくらい感じるか?」との質問に対して、「とても不安を感じる」18.8%、「どちらかといえば不安を感じる」57.8%、「どちらかといえば不安を感じない」19.6%、「まったく不安を感じない」2.6%であった。すなわち、およそ4分の3の人々は不安を感じている状況だ。
同じく「中国が台湾を軍事的に攻撃するような事態になった場合・・・自衛隊が米軍とともに戦う」ことに「賛成」7.8%、「どちらかといえば賛成」14.7%、「どちらかといえば反対」35.9%、「反対」38.3%であった。要するに、およそ4分の3の人々は台湾への軍事支援には反対している。
台湾への中国軍の侵攻に警戒を強めている米軍関係者たちは、“同盟国”であり台湾と中国に隣接している日本の人々多くが、自国周辺の軍事情勢に危機感を高めている一方で、隣国台湾への軍事的支援には極めて消極的であるという世論調査の結果に危惧の念を抱いている。
なぜならば、台湾を巡っての米中軍事対決には、自衛隊の出動が欠かせないと考えられているからだ。
上記の世論調査における質問は、ウクライナ情勢に関する項目の中に位置しており、ウクライナ戦争に関連する5つの質問に引き続いて問いかけられている。したがって回答者は、「核戦力を含む強大な軍事力を有するロシアが、弱小軍事力しか持たないウクライナに突如として侵攻した」という単純化された“他国への軍事攻撃”のイメージを最初に植え付けられてしまうであろう。
そのうえで、「日本がロシア以上の強大な軍事力を有する中国(あるいは核戦力を有し日本海や日本列島上空越えのミサイル試射を繰り返している北朝鮮、または日本と領土紛争中でありウクライナに侵攻しているロシア)から、ある日突然軍事攻撃を受ける」という事態を想定させてしまうことになるわけで、まさに誘導的設問ということになる。
軍事組織は「戦闘に勝利する」ことが任務
上記の世論調査に限ったことではなく、本年(2022年)2月下旬にロシアがウクライナへの侵攻を開始すると、中国による台湾侵攻が差し迫っているとのアメリカにおける危惧の高まりも相まって、日本では「日本が外敵、とりわけ中国から軍事攻撃を受ける」というシナリオが盛んに取り沙汰されるようになっている。
たしかに、アメリカ軍や自衛隊といった軍事組織は、このようなシナリオを幾通りも策定して、外敵による軍事攻撃が開始された場合に対処すべく準備や訓練を推し進めておかねばならない。なぜならば、いかなる軍事組織にとっても、外敵により攻撃が行われた場合、あるいは政府によって軍事紛争へ投入された場合などには、戦闘に勝利することが任務であるからだ。
したがって、軍事組織は軍事攻撃や軍事衝突が勃発した段階からの様々なシナリオを策定し検討して、防衛策、すなわち外敵に勝利する戦略を生み出し軍備を整え訓練を重ねておくことが必要最低限の義務であり任務であるということになる。
政府や国会、言論界の義務は?
しかしながら、政府や国会はもとより言論界(メディアも含む)などは、軍事紛争が勃発した段階から議論を始めるべきではない。
軍事組織とは違い、それ以前の段階、すなわち軍事紛争をいかにして発生させないように仕向けるのか? あるいは日本から軍事攻撃の矛先を逸らせるのか? に関する戦略をひねり出す議論を尽くす必要がある。
なぜなら、政府や国会や言論界は「軍事紛争を避けるための戦略」を議論し策定することが義務であり、軍事組織は「軍事紛争を避けるための戦略」が失敗した段階からスタートする「迎撃や反撃のための戦略や態勢」を用意するのが義務だからだ。
ところが、日本政府や国会それに大手メディアなどは、ウクライナ戦争で潤っている軍需産業と一心同体のアメリカ政府が煽り立てている「迫りくる東アジアでの軍事紛争」といったシナリオを真に受けて騒ぎ立て、○○の一つ覚えのごとく「日米同盟の強化」を叫んで、アメリカから超高額兵器を調達するために、その多くが投入される国防予算を増額させようとしている始末である。
政府や国会そして言論界は、軍事組織と違い、まずは「いかにすれば中国による対日軍事行動を躱(ひるがえ)すことができるのか? いかにすれば中国による台湾軍事攻撃を回避させることができるのか?」といった「軍事紛争を避けるための戦略」を論ずる義務がある。
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(出典 news.nicovideo.jp)
verlies 戦って勝てる、少なくとも相手にも致命傷を負わせるだけの力が無ければ紛争は避けられない。安全に勝てると思われることは侵略者を招き入れることと同義だからだ。さっさと降伏する形でも紛争は避けられるかもしれないが、そもそも紛争を避ける目的は国民生活の維持なのだから、論外だ。 |
たこやき 「戦争仕掛けられることを想定して確実に勝てる状況にする」ことこそ「軍事紛争を避けるための戦略」だろう。まあそれ以外の確実な方法があると主張するなら、まず代案を出してくれよ、ウクライナが侵攻を受けたことも含めてね。存在しないものを必死に考えたところで時間も税金も無駄になるんだよね。 |
ソボロ丸 反撃能力と有事法整備の乏しい日本が、「軍事紛争を避けるための戦略」の失敗の後に軍事衝突について真剣に考えてては遅すぎる。腫物のように手を付けない軍事を政治が自衛隊に丸投げする時代は終わった。 |
15sky52 だから軍事拡充と相手国に対して法の順守を求めること、相手国の軍事拡充を控えてくれって声明とか大事なんだけど?日本が既にしてることだよね。んでもって日本側が求めてる相手国は日本の数倍の勢いで軍事拡充を行い、自国内の法整備を軍事侵略が出来るような内容に変えている。日本がこれで委縮する方がアウトだろ。この手の記事書いてる人は本当に幾ら貰ってるのかね? |
15sky52 ちなみに土地や資源に乏しい国家が核ミサイルを持ちたいって言うのは資源や土地が広い大国の言いなり、奴隷化に対して乾坤一擲の一撃を求めてるから持ちたいって願望があるんだぞ。日本は核を持たないけどお金と法を上手く使って平和的に蹂躙されすぎない立場にいたのに、お金が弱くなり法を脅かす輩が出てきた来たからかなり危険になってる。それくらい小学生でもわかるのにな |
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