日本とは違う

(宇山 卓栄:著作家)

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英邁なる女王の死を悼む

 イギリスエリザベス女王9月8日、静養先の北部スコットランドのバルモラル城で逝去されました。96歳でした。わずか2日前に、メアリーエリザベス・トラス氏を新首相に任命したばかりでした。誠に急なことで悔やまれます。

 エリザベス女王1952年エリザベス2世として25歳で即位され、今年6月に、在位70年を記念する祝賀行事も開催されました。2019年7月にケンブリッジの農業植物学国立研究所の開設100年を祝う植樹式に出席された際、研究所の職員が植樹をする予定でしたが、なんと女王が自らシャベルを手に取って、植樹をされました。

 職員が慌てて手を貸そうとしたところ、それを遮って、「木を植えるぐらいの力はあります」と答えられ、土を盛られたのです。当時、エリザベス女王の変わらぬ御健康を皆が喜び、お元気に100歳に向かわれると思われていました。ご功労に敬意を表しますとともに、謹んで哀悼の意を表します。

 エリザベス女王の死を受け、長男のチャールズ皇太子チャールズ3世として新国王に即位しました。チャールズ国王は母方から王位を継承しているので、女系王になります。

 日本では、イギリス王室の例がよく引き合いにされ、「イギリスにはエリザベス女王がおられるのに、なぜ、日本では女性天皇が認められないのか」「チャールズ皇太子が即位すれば女系王になる、なぜ、日本では女系天皇が認められないのか」などの声が聞かれます。

 イギリス王室と日本皇室とでは、歴史背景、文化・伝統、制度・政治などが異なり、単純に比較することはできません。それでも、イギリス王室が歴史的に女王や女系王を認めたという事実や経緯を知ることは、日本皇室との違いを認識する上で役立ちます。

王位継承問題で英仏は百年戦争を始める

 現在、我が国では、皇室典範の規定により、男系男子にしか皇位継承を認めていません。男系男子の皇位継承者を永続的に多数、確保することは容易ではないため、男系男子以外にも皇位継承権を拡げるかどうかという問題提起や議論がなされています。

 14世紀、フランスシャルル4世が継承者を残さず没すると、イギリスエドワード3世は自らの母がフランス王家の出身であることを理由にフランス王位を要求します。フランスはこれを認めず、対立し、百年戦争が始まります。

 エドワード3世はフランスにおいては女系になります。イギリスでは女系にも王位継承権が認められていたので、エドワード3世はフランス王位継承権を自らの権利であると主張したのです。

 イギリスのように、女系王容認という立場であれば、母が外国からやって来た場合、その子には、母の出身国の王位継承権があるということになります。母、祖母、曾祖母と遡って、母系の出身国の全てに、王位継承権があるという理屈になります。

 つまり、女系継承は他国の王室を乗っ取るための理屈として戦略的に用いられることがあったのです。

 女系継承はイギリスだけに限らず、他のヨーロッパ王室でも用いられました。例えば、ハプスブルク家などは女系継承によって、他国の領土や家督、王位を半ば強奪する形で、その勢力を拡大させました。

女系継承では継承者が膨大な数に

 そして、ここが非常に大事なところなのですが、逆に、他国に嫁いだイギリス王族女性の子にも、王位継承権があるということです。例えば、スペイン王に嫁いだイギリス王族出身の女性から生まれた子孫は全て、女系子孫として、イギリス王位継承権があるということになります。

 つまり、その場合、スペイン王族がイギリス王位継承権を主張することができるわけです。このように、女系継承により、際限なく、王位継承者が広がるのです。

 実際、現在のイギリスの王位継承権を持つ者は約5000人もいます。その中には他国の王も含まれます。

 主な継承者の例として、ノルウェー国王ハーラル5世、プロイセン王家家長ゲオルク・フリードリヒフェルディナントスウェーデン国王カール16世グスタフデンマーク女王マルグレーテ2世、ギリシャ王妃アンナマリアギリシャ国コンスタンティノス2世、オランダ前女王ベアトリクスオランダ国王ウィレム=アレクサンダーなどが含まれます。

 この継承者の数からもわかるように、女系継承で、王位の意味や重要性は明らかに希薄となってしまいます。

 男系家系の派生範囲は限定的であるけれども、そこに女系が加わるとその範囲は膨大になります。このような継承者の範囲拡大を防ぐため、日本皇室では、皇族女性が嫁いだ際には、皇籍を離脱させます。

 女系継承を認めないという皇室の原理は天皇家の外に対しては際限のない継承者拡大を防ぐためであり、天皇家の内に対しては王朝の断絶を防ぐためであるのです。

男系の王朝名か女系の王朝名か

 チャールズ3世新国王の即位とともに、イギリス王室は王朝名をウィンザー朝からマウントバッテン=ウィンザー朝と変える予定とも伝えられています(正式な発表はなされていません)。これは、エリザベス女王の夫で、チャールズ3世の父であるエジンバラ公の家名を加えた名称です。

 男系の家名であるマウントバッテン朝ではなく、マウントバッテン=ウィンザー朝という折衷名にするのはエリザベス女王の直系血筋が絶えるわけではないという考え方で、ウィンザー朝の継続というニュアンスを出すために、この王朝名を引き続き使おうとしていると考えられます。

 19世紀に登場する有名なヴィクトリア女王イギリスの最盛期を担い、1837~1901年までの64年間にわたり、君臨しました。ヴィクトリア女王1840年、ザクセン=コーブルク=ゴータ家のアルバート公と結婚します。ザクセン=コーブルク=ゴータ家はドイツザクセン家という有名な貴族の家系から派生した分家です。コーブルク(ドイツバイエルン州北部の都市)とゴータ(テューリンゲン州の郡)を領有していたため、このような家名で呼ばれます。

 ヴィクトリア女王が逝去すると、アルバート公との間に生まれた長男のエドワード7世が即位します。エドワード7世は女系王です。女系王であるため、父の家名に変更され、イギリスザクセン=コーブルク=ゴータ朝となります。

 しかし、イギリスでは、女系継承容認の立場から、ヴィクトリア女王の直系血筋が断絶したわけでないため、ハノーヴァー朝の継続を主張する人もいます。また、ハノーヴァーサクス=コバータ=ゴータ朝という折衷名が使われることもあります。

 この例にならい、今回、マウントバッテン=ウィンザー朝という折衷名を使おうということだと思われます。

日本の天皇に姓がない理由

 ちなみに、第1次世界大戦で、イギリスドイツと戦ったため、敵国のハノーヴァーサクス=コバータ=ゴータの名を避け、王家の居城であるウィンザーにちなむウィンザー朝と名を変えました。

 イギリスでは、女系継承容認という価値観において、母方の家名を引き継ぐのは自然なことであり、それが、イギリス王室の歴史的文化・原理として長い間培われ、国民にもその価値観が共有されていると言えます。

 ところで、天皇に、家名や姓はありません。姓は天皇によって与えられる朝廷での役職や地位を表すものです。天皇は自分で自分に姓を与えることができず、姓のないまま、今日に至ります。

 また、日本の皇室が万世一系であったことも大きな理由です。諸外国のように、頻繁に王朝が変われば、姓による区別も必要だったでしょうが、一つの家系しかない日本の皇室にはそのような区別も必要ありません。姓は天皇が与えるものであるのに対し、名字は個人が自由に付けてよいものです。また、氏は古代の親族ごとに付けた集団の名のことでした。

 イギリス王室はその歴史背景において、日本皇室とまったく異なります。その差異がどのようなものであるかを再認識することによって、皇室の歴史文脈の独自性が色濃く浮かび上がります。皇位継承問題を考えるにあたり、こうした観点は有用な視座を与えてくれると思います。

 日本皇室には、他国の王位を乗っ取るという発想はありませんでした。日本皇室が男系継承を維持してきたのは、皇室を野心ある勢力から守りたいという日本人の素朴な意識の表れであり、バランスの取れた政治感覚と秩序維持を重視した日本人の知恵でした。

[もっと知りたい!続けてお読みください →]  英エリザベス女王が死去、一報が入った瞬間のBBC報道

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(出典 news.nicovideo.jp)

hinode

hinode

イギリスの今の王室がイギリスを建国したわけではないのに対し、日本の皇室は日本を建国した神武天皇の直系である、という違い。

いってい

いってい

日本大嫌いサヨクの大好きな「歴史的経緯」が理由だよ

ゲスト

ゲスト

女王の警備隊員が子供が前にいるのにとまらずにぶつかっていったのに逮捕されてないクソ国家。

akane

akane

英国王室って四捨五入したら海賊王の末裔やぞ

miss

miss

まぁ、今でも子供を逮捕すべきだとは思うがねあれで子供擁護はテロ支援するアホか脳味噌お花畑だけ

イントレ

イントレ

日本は壬申の乱のような例外を除けば、ほとんどの天皇家が殺されないからだよ。向こうは一族抹殺して断絶させて王朝変えるからな。

モッチー2643

モッチー2643

そもそも現在の英国王室であるウィンザー朝(ハノーヴァー朝)は元を辿ればドイツの選帝侯で、その前の王室スチュアート朝とは女系で繋がっている。

梅の字

梅の字

皇室にポリコレを持ち込むな、という最大の教訓をくれるのが英国王室なんですが。

koromama

koromama

イギリスも男性の世継ぎがいる時はずっと男性で繋いでいたはずで、女王は他に選択肢がない時にやむを得ずそうなったのが始まりでしょう。日本はたまたま今までずっと男系で繋げてたからそうなってるだけで、悠仁さまの後はこの仕組みを変えざるを得なくなる可能性もあります。