皮肉な話だと思いますが・・・

(杉山 大志:キヤノングローバル戦略研究所研究主幹)

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経団連の資料が示すCO2減少の実態

 日本の産業部門のCO2が減っている。

 その理由は何か。

 経団連の資料(2021年度 カーボンニュートラル行動計画 第三者評価委員会 評価報告書2022年3月30日)を見ると、

(1)経済活動量の変化
(2)CO2排出係数の変化(エネルギーの低炭素化)
(3)経済活動量あたりのエネルギー使用量の変化(省エネ

に要因分解をしている。

※本記事には3つの図表が出てきます。配信先のサイトで表示されない場合は以下をご確認ください(https://jbpress.ismedia.jp/articles/gallery/70455


 そして同資料では、以下のように書いている(「CN」はカーボンニュートラル、つまりCO2排出ゼロの意味)。

(評価とコメント
2030 年度の産業部門の政府目標は 2013 年度比で 6.5%削減(実行計画策定時)と 38%削減(CN 行動計画策定時)に対して、CN 行動計画の産業部門では、2020年度実績で既に 20.8%削減されたことは、評価に値する。また、全ての委員が、産業界の継続的な省エネ努力によって 2013 年度から 2020 年度までの CO2排出量が常に減少し続けていることを高く評価ないし評価に値すると考えている。

 何だって??? どう考えてもおかしい。この図表を見れば、「(1)経済活動量の変化」がCO2減少の最大の原因であることは明らかだ。

 真ん中の「2013年度比」で見てみよう。「(1)経済活動量の変化」、すなわち産業の衰退でCO2が18.2%も減少した。「(2)エネルギーの低炭素化」はわずかに3.9%のCO2減少をもたらしたにすぎない。「(3)省エネ」に至っては何と1.4%のCO2増加要因(!)だ。

 この事情は「2005年度比」でも「2019年度比」でも似たり寄ったりだ。

 つまり日本の産業が衰退したのがCO2減少の最大の理由だ。エネルギーの低炭素化も、省エネも、あまりCO2減少に寄与していない。

 2020年度はコロナウイルスの蔓延があったので、特に経済活動量が落ち込んだという特殊事情はある。しかし、この図は、今後日本で起きることを暗示している気がしてならない。日本の産業はますます衰退して、それによってCO2は減少する一方なのではないか?

 東京都は、日本の衰退を先取りしているようだ。

 東京都の「2030年カーボンハーフ」の資料を見て愕然とした。

 工場のエネルギー消費が激減している。そして、都はこれをさらに激減させようとしている。

 東京都の産業部門のCO2排出量は、2000年に679万トンだったのが2019年には43.9%も減って381万トンとなり、今後、2030年にはさらに41.8%も減らして222万トンとするという見通しになっている。エネルギー消費量も、同様に激減してきたし、今後も激減を続ける見通しになっている。

 東京都の資料は、この理由を要因分解していない。だがこのような激減が省エネや燃料転換のような、いわゆる温暖化対策だけで起きたとは考えにくい。

工場が激減すればCO2が減るのも当然

 実は、工場が壊滅的に減っている。

 東京にも工場はたくさんある。23区の中では大田区が有名だ。西部の多摩地区にも多くの工場がある。だが、次々に無くなっている。地元の方はまさにこれをよく実感しているだろう。

 統計的にも、東京都の資料(東京都産業労働局「東京の中小企業の現状」)で都内製造業の事業所数と従業者数の減少を確認できる:

 この図に示してある2003年から2015年の12年間だけで、事業所数は4万9580から2万7142まで減っているから、実に45%の減少だ。従業者数は46万7210人から29万6132人まで減っているから、37%も減っている。

 これだけ工場が激減し、雇用も減っていれば、CO2が減るのも何ら不思議はない。

 東京都は、CO2が減った理由が何だったのか冒頭の経団連の図と同様に、要因分解を示すべきだ。

 そして、CO22030年に向けてさらに激減させるという見通しの意味をよく考えるべきだ。大田区から、多摩地区から、工場が減り、雇用が無くなることを、東京都は今後も促進したいのだろうか?

 以上では東京都について書いてきたが、実は東京都はまだよい。本社機能が集中し、サービス産業も発達していて、財政は豊かだからだ。

脱炭素は地域経済に深刻な打撃

 東京都以外では、問題ははるかに深刻だ。工場に依存した経済になっている自治体は多い。工場が無くなれば、経済が崩壊するだろう。

 次の図は、筆者がまとめた『脱炭素のファクトフルネス』で示している県内総生産あたりのCO2排出量を示したものだ。元データは総合地球環境学研究所による。

 これは、お金を100万円稼ぐために何トンのCO2を出しているか、ということだから、脱炭素政策に対する脆弱性の指標になる。上位からランキングしておこう。

1位 大分 6.7
2位 岡山 6.0
3位 山口 6.0 

 以下、4位 和歌山、5位 広島、6位 愛媛、7位 千葉、8位 茨城・・・、最下位 東京 0.7となる。

 トップの大分が6.7であるのに対して、最下位の東京は0.7なので、10倍も開きがある。

 大分、岡山、山口で「県内総生産あたりのCO2排出量」が大きい理由は、鉄鋼、石油化学、セメントなどをはじめとして製造業が発展しており、しかもそれに頼った経済になっているからだ。

 既存の工場でCO2を減らす技術的手段は限られるから、CO2を大幅に減らしたければ、生産活動を止めるしかない。

 脱炭素を闇雲に実施するとなると、工場は閉鎖され、地域の経済はその支柱を失って、大きな打撃を受けることになるだろう。

 どの県にも工場があり、そこで働く人々がいる。

自治体は「カーボンニュートラル」宣言を見直すべき

 人々は、これから自らの地域の経済がどうなってしまうのか、よく考えるべきだ。そして、無謀な脱炭素政策に対して、自治体政治家、企業、労働者、一般市民が一体となって、異議を唱えるべきだ。

 特に政治家には頑張ってもらいたい。支持基盤には地域経済があるが、それが根こそぎ崩壊するのだ。危機感を持って対処してもらいたい。 

 あきれたことに、日本全国津々浦々の都道府県が「カーボンニュートラル」を宣言している。宣言していないのは、茨城、埼玉、愛知、石川、山口のみだ。本当に工場が無くなってもよいのか?

 CO2を極端に減らす「カーボンニュートラル」という環境目標は、工場を守り、建て、雇用を続けるというごく普通の経済政策と、大きく矛盾する。

 仮にエネルギーCO2ゼロですべて供給されるなら話は別だ。だが現在の技術では、石油・ガス・石炭などの化石燃料を全く使わない工場というものは、大半の場合、絶望的に採算が合わない。

 自治体は、カーボンニュートラルという宣言について、その位置づけをよく考えなおしたほうがよい。今更取り下げるのが難しければ、あらまほしき努力目標というぐらいの位置づけにして、具体的な計画や政策については、もっと現実的になり、工場と雇用を守るべきだ。

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2021年8月、気候変動問題を担当するケリー米大統領特使と会談する菅義偉・前首相(右)。菅政権時代、日本は2050年カーボンニュートラルを宣言した(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)


(出典 news.nicovideo.jp)