支配する

(福島 香織:ジャーナリスト

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 中国のメディア弾圧にはそれなりの長い歴史があるのだが、10月8日に国家発展改革委員会が打ち出した「市場参入ネガティブリスト」(2021年)で、メディア産業から民間資本を締め出す政策が打ち出されたときは、いよいよ来るべき時が来た、という気がした。

 発展改革委のホームページのリストを見ると、10月14日までパブリックオピニオンを求めるということになっており、まだ本決まりの通達ではないが、おそらくその中身が大きく変更されることはないだろう。

メディア運営に関われなくなった民間企業

 公表されたリストは、ネガティブリストが6項目、ポジティブリスト(民間企業が入ってよい産業)が111項目の、計117項目。昨年(2020年)までネガティブリストは第5項目までしかなかったが、今年、第6項目に「ニュースメディア関連業務」が加えられた。

 その第6項目の中身はおよそ6つに分けて説明されている。

(1)非公有資本(民間企業)が報道事業に関与してはならない。

(2)非公有資本は報道機関の設立・経営に投資してはならない。その範囲は通信社や出版社、ラジオテレビ局だけでなく、ネットニュースサイト、情報編集発信サービス機構なども含む。

(3)非公有資本は、報道機関の紙面、チャンネル、コラム、アカウントなども運営してはならない。

(4)非公有資本は政治、経済、軍事、外交、重大な社会、文化、科学技術、衛生、教育、スポーツ、政治の方向性に関与すること、世論や価値観の誘導に関する活動、事件の実況放送などの業務に従事してはならない。

(5)非公有資本は海外メディアが発信した報道を国内に広めてはならない。

(6)非公有資本が報道・世論領域のフォーラムサミットを開催したり、(コンテストなど主催して)賞評活動を行ってはならない。

 具体的な例をいえば、経済紙「第一財経」の株30%をアリババが保有していたが、これは(1)によって手放さなくてはならないだろう。ちなみに、第一財経の母体は上海テレビ放送局と東方放送経済チャンネルの合弁で2003年に誕生したメディアで、2014年に上海メディアグループSMG、上海文化広播影視集団)という中国最大の国有メディアグループに統合された。その傘下の第一財経媒体集団の30%の株(12億元)をアリババ2015年に取得していた。

 中国の女性ジャーナリストの胡舒立が1998年に創刊した経済誌「財経」および財経から胡舒立が飛び出て2009年に創立した「財新伝媒」は(2)に抵触するだろう。第一財経も財新伝媒も、新型コロナ禍の報道統制下でも果敢に情報発信を続けていた。ちなみに財新伝媒にはアリババ傘下のアントグループや騰訊が出資している。ただ、アントグループが保有する財新株はすでにすべて売却されたと10月12日に網易科技サイトが報じていた。

 財経も第一財経も、新型コロナ禍の報道統制下でも果敢に情報発信を続けていた。ちなみに財新伝媒にはアリババ傘下のアントグループや騰訊が出資している。ただ、アントグループが保有する財新株はすでにすべて売却されたと10月12日に網易科技サイトが報じていた。

 IT企業のバイトダンスが提供するニュースアプリ「今日頭条」はじめ、テンセントアリババなどの民営インターネットラットフォームが運営するニュースサイト、ビデオサイトは(3)に引っ掛かりそうだ。(4)に至っては、民営のSNSにおいて、テーマを問わず意見を表明すること自体を禁じていることにならないか。

 また(5)を厳密に守れば、SNSブログで海外ニュースを転載したり引用したりすることもできないし、セルフメディア(自媒体)を顕彰するテンセント報道賞(騰訊新聞奨)も(6)によれば許されない。そもそも民営プラットフォーSNS上に登場し市民権を得始めたセルフメディアの存在自体がダメ、である。

 中国のセルフメディアの多くは現役の国有メディア記者・編集者が運営しており、個人の発信でありながら、共産党の指導に沿ったものである。直接管理下に置かれてなくても、当局の意向に忖度して発信するものが多い。中には元財経副編集長の羅昌平や、新型コロナ禍の武漢で独自調査に乗り出す弁護士の陳秋実や張展、元CCTV記者の李澤華や実業家の方斌のように、当局の意向に忖度しない発信をする者もいる。だが、そういう発信者はたいていアカウントを凍結されるか、ひどい場合は逮捕されている。羅昌平は最近、大ヒット中の愛国プロパガンダ戦争映画「長津湖」を批判したことで「革命烈士侮辱罪」容疑で逮捕された。陳秋実、張展、李澤華、方斌は武漢での取材中に当局に逮捕されている。武漢取材の4人の中で陳秋実、李澤華は釈放されていることが確認されているが、張展は容疑を素直に認めなかったため拷問を受け、今は懲役4年の判決を受けて服役中だ。

習近平が次々に規制強化を打ち出す背景

 なぜ今、習近平政権は、こうした報道メディア産業からの民間企業の徹底排除に踏み切ったのか。

 中国のメディア規制はすでにガチガチに厳しく、ほとんどのメディアは忠実な党の宣伝機関だ。2020年ネガティブリストでは、第5項目の「ルールに反したインターネット関連経営活動の禁止」の中に、非公有資本がインターネットニュースの取材編集に介入してはならない。いかなる組織も外資との合同経営でインターネットニュース情報サービス機構を設立したり運営したりしてはならない」としており、それで十分にネットニュース統制の効果は発揮されている。

 私が想像する理由は、1つには来年秋の党大会を前に、習近平の長期独裁確立に向けた地ならしや、権力闘争が絡んでいるのではないか、ということだ。

 昨年から今年にかけて習近平は次々に規制強化を打ち出している。たとえばアリババ傘下のアントグループのIPO阻止、民営インターネットラットフォーム企業に対する独禁法違反を理由とした巨額罰金処分、不動産バブル退治を理由にした民営不動産企業の恒大集団の追い込み、広東グレートベイエリア地域の住宅プロジェクトを担っていた花様年集団のデフォルトエンタメ芸能界産業に対する締め付け強化や人気女優へのバッシングなど、である。こうした動きは、単に経済・社会の矛盾是正のためや、習近平の掲げる共同富裕路線に沿った政策だから、というだけではない気がする。

 米紙「ウォール・ストリートジャーナル」が、アントグループ上場阻止の本当の理由は、習近平にとっての政敵である江沢民や賈慶林につながる資本が巧妙に入っているからだという党内筋の話をもとに報じていた。

 同じような観点からみれば、今、デフォルト危機に直面している大民営不動産企業の恒大の創業者の許家印は、かつての江沢民の側近で胡錦涛政権時代の国家副主席を務め、習近平の政敵とみなされている曽慶紅ともきわめて近い関係にある。その結びつきは曽慶紅の息子の曽偉に香港の豪邸を貸与するほどだ。

 また許家印は、2017年に失踪した明天ホールディングス創業者の蕭建華とも昵懇(じっこん)だった。蕭建華は曽慶紅らの「ホワイトグローブ」(資金洗浄や資金移転などの違法行為を正当な業務を装って代行する企業家の総称)であったため、習近平が秘密裏に逮捕していると信じられている。

 恒大問題に連動する形でデフォルトし国家接収されそうな民営不動産企業の花様年は、曽慶紅の姪である曽宝宝が創業。花様年が香港で上場するときは許家印の資金力が支えとなった。

 またエンタメ芸能界は曽慶紅の弟、曽慶淮が文化部官僚時代に掌握し、習近平の妻の元軍属歌手の彭麗媛が主導権を取り戻すまで曽慶紅ファミリーが牛耳っていた。1990年代から活躍し始めた女優の趙薇(ヴィッキーチャオ)はアリババとの資金関係で圧力を受けていると思われているが、曽慶紅ファミリーとも比較的近しい関係にある。

 習近平のエコの理想を掲げた双カーボン政策(2030年までにカーボンピークアウト2060年までにカーボンニュートラルを実現)も、石油などの化石エネルギー産業、ガソリンを使う自動車産業が曽慶紅閥や上海閥の利権に関わる産業だということで弱体化させようという狙いもあるかもしれない。

政敵となった王岐山

 なんでも権力闘争の視点から解釈するのはチャイナウォッチャーの悪い癖ではあるが、今回のメディア産業からの民間企業排除方針についても、こうした権力闘争の要素が読み取れそうな気がする。

 ターゲットにされているのは、おそらく第一財経や財新などのいくつかの媒体、そして民営インターネットラットフォーム企業のニュースアプリSNS上の世論誘導・形成機能ではないか。個々人が運営するセルフメディア退治は、革命烈士侮辱罪や社会擾乱罪、挑発罪といった既存の法律の乱発と見せしめでいくらでも刈り取れる。

 とすると、狙いの1つはアリババメディア関連資産で、実際すでに党中央当局からの圧力で財新株は売却された。第一財経や財新伝媒にアリババが投資した当初、世間はアリババメディア帝国ができると予測したものだった。アリババに江沢民系利権が絡んでいるという話はウォール・ストリートジャーナルが報じた通り。

 また財新伝媒を創業した胡舒立は王岐山と近しい。

 王岐山は現国家副主席、そして習近平政権第1期目では中央規律検査委員会書記として反腐敗キャンペーンの陣頭指揮をとって官僚汚職を成敗してきた。彼の反腐敗キャンペーンにおける功績は間違いなく習近平政権の地盤固めに寄与したはずだが、今は王岐山と習近平の信頼関係は完全に崩れている。王岐山は実務能力にたけた有能な官僚であり、習近平が王岐山に自分の権力が脅かされるのではないかと恐れたため、と言われている。だから、習近平は王岐山の海南航空集団における利権をつぶし、圧力をかけたのだ、と。一時、ドイツ銀行やホテル大手のヒルトン・ワールドワイドの筆頭株主にまでなった海南航空集団は今年2月に破綻し、事実上国家接収された。創業者の一人の王健は2018年フランスの片田舎で謎の事故死。もう1人の創業者で会長の陳峰はCEOの譚向東とともに今年9月、逮捕されている。容疑は伏せられて「犯罪に関与」とだけ報じられている。

 つまり習近平にとって王岐山はすでに政敵であり、王岐山から恨まれている自覚もある。来年秋に長期独裁政権を打ち立てる前に、反撃に出られるのではないかと恐れているとしたら、王岐山が財新のような国内外に影響のあるメディアを使って世論誘導戦を仕掛けてこないように財新は締め付けておく必要がある、などと考えたかもしれない──もっとも、これはあくまでも私の勝手な想像であるが。

精神の自由と知性を奪う独裁者

 もう少し俯瞰的に見れば、習近平鄧小平の改革開放路線から毛沢東回帰路線に逆走中で、経済成長よりも、格差を解消して「共同富裕」を実現することを優先し、「国進民退」(国有化を進め民営企業を排除)路線をあらゆる領域でやり始めている。国有化を通じて、不動産市場も、教育産業を通じた子供の思想教育も、ネットエンタメを通じた世論誘導も、習近平はすべてを完璧にコントロールしたいのだ。ニュースメディアもそうだ。

 だが、すべての統制の中で、メディア、報道のコントロールは、人の精神の自由と知性を奪う最も悪辣な独裁者の手法である。習近平よ、ここまでやるか、という思いだ。

 今年のノーベル平和賞は初めて「報道の自由」がテーマになり、フィリピンマリア・レッサとロシアのドミトリー・ムラトフという、独裁権力と戦う2人のジャーナリストに授与された。中国ではこのニュースは国営華僑向け通信・中国新聞社が速報を流した後、すぐに報道規制対象となっている。ノルウェーノーベル委員会は今年のノーベル平和賞にもう1人、たとえば蘋果日報(ひんかにっぽう、アップルデイリー)を創刊し、今は獄中にある黎智英(ジミー・ライ)のような中国の独裁権力と戦うメディア人を加えるべきだった。そうすれば、たとえ中国で報道規制にあっても、中国国内の記者やメディア人たちにひそやかに伝わり、今後、より一層厳しくなるであろうメディア冬の時代を生き抜くために多少の勇気を与えてくれたであろうに。

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写真はイメージです


(出典 news.nicovideo.jp)

R DWARF

R DWARF

いよいよ北と変わらんな。

Kiyumi

Kiyumi

民間がなければ、民間の監視や弾圧の問題が発生しなくなるね。 元を絶った訳ですね。

ccx

ccx

人気順位が下がったのでマスコミを訴えるとか言ってる某知事の発想の行き着く先はこういうこと。

名無しさん

名無しさん

これ国家の伝えたい情報だけを伝えられる反面、海外の色んな情報が入ってこないから国民の知的水準は下がっていくと思うし、それは中国の国力の低下につながると思うんだけどどうなるんだろな

ヌコ大好き

ヌコ大好き

中国のメディアって検閲されて許可がある記事だけ乗せてたから民営が国営になってもまあ内容は変わらないんじゃないかな。

ALTAIR [ltr]

ALTAIR [ltr]

どうせ日本を叩いて溜飲を下げてる奴等は、関心があるように見えるけど実際は無知だしな(偏ってる)...制限してもたいして変わらないかも?

ヌコ大好き

ヌコ大好き

変わる事と言えば日本で言う天下り先みたいな感じで中共のお偉いさんの幹部待遇だと思いますよ。

はい

はい

寧ろ今までそうじゃなかったのかってレベル

世捨て人

世捨て人

とはいえインターネットがあるわけで、今も検閲はされてるけど色々検閲回避する方法あるんじゃなかったっけ?そういうのも徹底的に潰すのかな・・・。

15sky52

15sky52

いつもは中国忖度一択しかないメディアも流石に国営のみだとなるとちょい一言いいたくなるのかね?? 個人的には華僑と言う各国の中国人グループがいるからこそ、他国の情報や比較を中国人自体がするだろうから情報統制とか上手くいかない気がするけどね

スク水洋一

スク水洋一

習近平の任期が無制限になった段階で、これらの言論統制の強化は予想されていた事態でしょうが。中共に都合の悪い報道しか無い、海外メディアの本格的な締め出しも、既に画策してるだろうし、独裁国家として末期状態に突入確定。