いろんな問題があります。そんな中でも女性差別は起きているようだ。

自衛隊の幹部候補生を養成する防衛大学校には1割ほどの女子学生がいる。防衛大学校を卒業したライターの松田小牧さんは「女子学生は、生理中でも遠泳や行軍などの訓練に参加しなければいけないため負担が大きい。男子学生から『女子のくせに』と言われることも多く、努力することを諦めてしまう女子学生もいる」という——。(第3回)

※本稿は、松田小牧『防大女子 究極の男性組織に飛び込んだ女性たち』(ワニブックスPLUS新書)の一部を再編集したものです。

■「女子は生理が止まって普通だから」と語る指導教官

防衛大学校の生活を紹介するうえで、女子特有の悩みにも触れておかねばならない。生理についてだ。

生理痛は個人差がひどいため、「イライラしてしまうサイクルがあるのが嫌」「生理中の訓練が本当に苦しかった」と挙げる者がいる。ある者は、生理痛が重いため、過酷な行軍時に被らないようにとピルを服用し、副作用に耐えていたのに行軍時に生理が来てしまって泣いたという。

1学年時の夏の訓練では、東京湾8キロ遠泳がメインとなり、毎日海やプールでの練習が実施される。高校時代までは、「今日あの日だから見学で」が通用するが、私の知る限り、防大では「生理だから」と言って練習を休んだ女子学生はいない。

訓練期間は約1カ月あるため、大体一度は生理期間が重なる。みんな慣れないタンポンを装着して訓練に挑むことになるが、そもそもタンポンを使ったこともない者がほとんどのため、トイレで悪戦苦闘し、時間にも追われて軽いパニックになることもある。

ある者は「遠泳本番と生理2日目が重なった。なんとか乗り越えたけど、『こんなキツいことがほかにあるのか』と思った」と振り返る。話を聞く限り、女子学生の生理への扱いは、昔の方がキツかったようだ。

40期(女子1期)代は、「あまり問題視、重要視されなかった」と振り返る。防大には医務室があり、風邪などの治療はそこで受けられるが、婦人科はないため、外部の病院に通院するには指導教官の許可が必要となる。

そんな中でピルを処方してもらうため、「男の指導教官に言いたくもないのに申請に行ったら、『女子は生理が止まって普通だから。そういうケースはよく聞くよ』と言われた同期がいた」と話す者がいた。

また、なんとか横須賀にある民間病院にかかったところで、「『オリンピックに行った女性は血を垂れ流しながら走ってた』って言われたから、あそこ行かない方がいいよ」などという話をしたこともあったという。

■医師から「子宮が未熟な状態です」と告げられる

生理をめぐっては、普段は少ない女子同士の確執があったという意見もあった。

訓練前になると、ピルの処方の希望の有無を聞かれる。訓練の強度で言えば4学年の陸上要員が最も高いため、下級生がピルを処方してもらおうとすれば「『今のうちからピルを飲むとか信じられない。今からそんなこと言ってたらこれからやっていけないよ』と言われて諦めた」「3学年のときに野営があるから処方してもらおうと思ったら『3年なのにピル使うの』と4学年の女子に言われた」という者もいた。

私自身、1学年の途中から約2年間、生理が止まった。本来であればすぐに病院に行くべきだということは頭では分かっていたが、ただ「楽だから」という理由で放置していた。

3学年時、武装走というフル装備で行う障害物競走のような訓練の本番当日に生理がやってきて、「久しぶりに来た」という安堵と「なんで今……」という悲しみの気持ちが入り交じった。その後もかなり周期が不規則で、一度病院で診てもらった際には「子宮が未熟な状態です」と言われ、「将来妊娠できるのだろうか」と不安になったことがある。

ところが自衛隊を辞した途端周期が安定し、今では二児の母だ。防大在学中は「大体のことは気力でカバーできる」と思っていたが、身体は思ったより正直なんだと妙に感心した。取材の中でもやはり、「生理が止まった」と話す者が複数いた。聞く限り私と同様、「まずいなぁとは思ってたけど、病院には行かなかった」という。

■いまだに生理不順が続く卒業生も

訓練期間中、陸上だと山に入ればトイレがないこともある。つまりナプキンを取り替えることもできない。となれば、「生理がない方が楽」と思ってしまうことはやむを得ない。

「防大、自衛隊はやっぱり女子のリズムには合っていない」と指摘する者もいた。今回の取材ではテーマとして「生理」を問うたわけではないが、複数の女子から生理についての言及があった。おそらく、私が聞いていないだけで不調を抱えていた女子はまだいるだろう。

部隊に行ってからピルを飲み始めたというある者は、「生理を自分で管理できるし、生理痛も減ったし、なんなら肌も綺麗になった。なんで防大時代飲んでなかったんだろう」と話す。私は運良く女性としてのリズムを取り戻せたが、卒業して自衛隊を退職し、それなりの月日が経過しても「まだ不順のまま」という者もいる。

生理が来ない、というのは楽なことではあるが、女性の身体にとっては不自然な状態だ。その割を食うのは、子どもを欲したときの将来の自分かもしれないことを、よく認識する必要がある。

■「幹部が100キロ歩いて敵陣地に乗り込む時点で戦争に負けてる」

次に「体力」に関連する事柄だ。これは陸上要員で圧倒的に多かった。

シンプルに「1学年の時はずっと走らないといけなかったから足が痛くなった」「訓練、学生舎生活は体力的にキツかった」「体力勝負でどろんこになって、という訓練がどうしても好きになれなかった」などという意見はもちろんある。

腕立て、匍匐(ほふく)前進、銃を持って走る「ハイポート」……どれもしんどい。海上・航空とは少し異なり、体力至上主義のきらいがある陸上要員での退職者の中には、「航空だったらやめてなかったと思う」と話す者もいるくらいだ。

行軍では「元々靴擦れをしやすかったので1学年のころから半長靴が足に合わなくて本当に嫌だった。眠い中、痛みと共に強制的に歩かされる、黙々と歩いていて何やってんだろうって毎回思ってたし、なんとかこなしてた空しい感じがあった」

「幹部がこんな100キロとか歩いて敵陣地に乗り込もうとしてる時点で戦争には負けてる。結局精神を鍛えるためだけのもので、それでこんなに心身をすり減らすのって意味あるのかなと思ってた」などの意見が寄せられた。

余談だが、卒業後、出産を経験した同期たちと「行軍と出産、どっちが楽だったか」という話を何度かした。結果は半々くらいだった。私自身はかなりの安産だったこともあり、断然「出産の方が楽だった」派だ。女子にとっての行軍はそれくらいキツい。

■「お前がお荷物なんだから」「これだから女は」

また、何人かから挙がった「怪我」については、男女問わず防大生は怪我が多いのは確かだが、個人的には比率としては女子の方が多いように思う。

単に「怪我をして痛かった」からつらかったという意見もあったが、「怪我をすると普通の防大生活が送れなくなる。なんとかついていくのに必死だった」「周りに負担をかけて『何してんだ自分』と落ち込んだ」ことを苦しい思い出として挙げる者もいた。

ただでさえ、男子に後れを取っていると感じているところ、さらに怪我をすればその心理的負担は増すことになる。「体力がないことで男子についていけないことに起因するつらさ」を挙げる声も多かった。いくつか紹介しよう。

「自分は足が痛くなったときに受診して走らなくなったけど、周りには足が痛いのに走ってる人がいて、自分が甘えてる感じがしてつらかった」
「競技会の練習中、『お前がお荷物なんだから』と言われた」
「行軍中靴擦れを起こし、足の皮はベロベロ。必死に歩いてたが、後ろから荷物を持ってくれた男子にお礼を言ったら『これだから女は』と言われた」
「どの学年になっても結局体力勝負の競技が多い。どんなに頑張っても自分が足を引っ張っているのが耐え難い。自分の分の荷物を男子に渡して、男子が荷物を二つ持って走っているのに、ビリになってチームの足を引っ張る。それが屈辱だった」

「男子から『体力ないんだから、もっと自分ができることを積極的にした方がいいよ。じゃないと男子とうまくやれない』と言われた」
「学力ではトップだったのに、戦闘機搭乗訓練の順番決めの際に女だからって理由だけで最後にさせられた」
「いざ作戦を考えるというとき、当たり前のように『じゃ、お前は見張りな』と言われた。作戦なら私にだって立てられる。でもそこですら戦力外とみなされる。何も来るわけがない山の中で突っ立って涙を流した」
「『行軍中、女子はLAM(個人携帯対戦車弾、約13キログラム)とか持てないんだからさ、もっと下手に出ろよ』と言われた」など、枚挙にいとまがない。

体力の部分は、どう頑張っても補えないところがある。それに直面して苦しみ、男子学生からの「何気ない」一言にまた傷付く。おそらく、上記の発言をした男子学生は、自分がそのような発言をしたことを覚えていないだろう。ましてや言われた側の心に傷を付けたことなど想像すらしないだろう。

■つらい訓練に追い打ちをかける「アンチ女子学生」の存在

「つらかったこと」として、「アンチ女子学生の目に留まること」と回答した者もいた。防大には、一定数「女子だから」という理由だけで存在を一段下に見る男子学生が存在する。

自分に自信を持てない状況下では、自分に否定的な者の存在がより大きくクローズアップされる。個人的な経験としては、女子学生を一段下に見る発言をしがちなのは、普段は「お前は頑張ってるよ!」などと声をかけがちな男子学生で、自身にも余裕がないときには急に「女子サゲ」になる傾向があった。行軍はその最たる例だ。

行軍では6人ずつ程度の分隊に一つずつ、機関銃(9キログラム)とLAM(13キログラム)が渡され、目的地まで持ち運ばなくてはならない。分隊員で持ち回りをするが、そもそも背のうと呼ばれるリュックも十数キログラムあり、4キログラムの小銃も携行しているので、女子はそれ以上の荷物をなかなか持つことができない。

男子学生自身も決して楽とは言えない状況の中、「女子学生がいる分こちらに負担が増えている」とイライラし出すと、上記のような発言が飛び出しがちだった。

取材の中では、「『これだから女学は〜』と言ってた奴に限って、卒業後に会ったら『俺普通の女と結婚したんだけど、めっちゃ弱いしすぐ文句言うし。防大の女子って頑張ってたんだな』とか言う。女関係で痛い目見たのかな(笑)」などという声もあった。

■対等に扱われず自己肯定感を失っていく女子学生

さて、体力差、またこのような発言を許す風潮は、女子学生の意識も変化させる。

「女子を下に見てる感じ、女子はいらねぇとか、邪魔なんだよとか言われてるような感じがずっとあって嫌だった」
「陸上の初歩的な戦闘戦技訓練が始まり、肉体的な男女の相違をいやおうなしに実感させられるようになってからが特につらかった。総合的な体力は平均的に男性の72%しかない、関節や骨格、筋肉の構造が異なるという前提を認識していないまま、同期の中で対等に扱われたい、同じ基準を満たしたい、または満たさなければならない、でもできない、という葛藤があった」
「同期に助けてもらってばかりの自分が情けなく、そんな人間が指揮官になって何ができるのかと卑屈になった」
「訓練はついていくのがやっと。かといって勉強面で優れているわけでもなく、自分は価値のない人間だと思い込んだ」

男子学生についていけないことで、自分が「劣った存在」であると捉えてしまう女子学生が多いことが見て取れる。「十分頑張っている、そこまで思い悩む必要はないのに」という女子であってもだ。

ちなみに、訓練の悩みとしては、陸上は上記のように圧倒的に体力だが、海上の訓練では「船にはワッチ(見張り勤務)があり、夜寝られないことがある。しかも夜寝ていないからといって昼寝られるわけではないので眠かった」「シャワーや洗濯が制限されるのがキツかった」という声があった。

航空からは、「つらかった」経験として訓練の話は一切挙がらなかった(「訓練でつらかったことは何ですか」と聞けば出てきたのかもしれないが、今回は誰に対してもそのような聞き方をしていない)。

■「女子のくせに」と言われつづけ頑張ることを諦めてしまう

そんな環境下では「頑張る前に頑張ることを諦める」女子も出てくる。

「本当は意見を出したりまとめたりするのが好きなのに、自分が女子だからという理由でそれができなかった。女子がリーダーになったらみんな嫌がるから」
「同期の女子が学生隊本部で役職に就いた。すると『女子のくせに』とか、『どうせ女子は内恋(内部恋愛)してるからダメだ』という批判が飛んだ」
「目立つ女子の上級生がいろいろ言われているのを聞いていた。頑張って目立てばこんな風に言われるのかと思って前に出るのをやめた」

このように、入校ほどなく、「女が目立つのは大変。そして目立ったら目立ったで悪評が立つ」ことを学ぶ。結果、「女性は一歩引く、我慢するものというのが植え付けられた」と話す者もいる。このような状態で「私は頑張って上に立とう」と思うには、相当の気力がいる。

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松田 小牧(まつだ・こまき)
ライター
1987年生まれ。大阪府出身。2007年防衛大学校に入校。人間文化学科で心理学を専攻。 陸上自衛隊幹部候補生学校を中途退校し、2012年時事通信社に入社、社会部、神戸総局を経て政治部に配属。2018年、第一子出産を機に退職。その後はITベンチャーの人事を経て、現在はフリーランスとして執筆活動などを行う。

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※写真はイメージです - 写真=iStock.com/AH86


(出典 news.nicovideo.jp)